カビているのになぜおいしい?世界が認めるチーズ職人に聞いた、チーズづくりに欠かせない「菌」のひみつ【ビールにあうチーズもご紹介!】
こんばんは、よなよなスタッフの「まりも」です。
突然ですが、私はチーズが大好きです。
中学時代、イタリアのチーズメーカー「Santa Lucia」のリコッタチーズが好きすぎるあまり、ケータイのメールアドレスを「ilovesantalucia@docomo.ne.jp」にしていた黒歴史があるぐらい、チーズが好きです。
そんな私にとって、今月の「よなよなの里」の特集企画「おいしいものは、だいたい菌で出来ている。」は、今世紀最高のテーマ。
だって、菌といえば、乳酸菌、青カビや白カビの菌……チーズしかない! そして、長野県にあるおいしいチーズ屋さんといえば……日本を代表するチーズ工房「アトリエ・ド・フロマージュ」!
アトリエ・ド・フロマージュは、1982年に長野県東御市で創業したチーズ工房。青カビ、白カビ、ウォッシュ、フレッシュ、セミハードなど、様々な種類のチーズをつくっています。国内外のコンクールで多数の受賞歴があり、なかでもブルーチーズは、国際チーズコンクール「MONDIAL du FROMAGE Le Concours International "Produits"」で「Super Gold」を受賞。軽井沢エリアを中心に展開している販売店やレストランでは、チーズをつかったピザやケーキなども味わうことができます。
ということで今回、国際チーズコンペで最高賞の受賞歴もある「ブルーチーズ」(青カビチーズ)をつくった、アトリエ・ド・フロマージュのチーズ職人・塩川和史(しおがわ かずし)さんに、チーズと菌の関係を聞いてきました。
最後には、ビアスタイル別のおすすめチーズや、保存方法についてもまとめています。チーズとビール好きの方必見!
自然豊かな土地でチーズをつくる「アトリエ・ド・フロマージュ」
やって来ました! アトリエ・ド・フロマージュ!
ここは、ヤッホーブルーイング佐久醸造所がある長野県「佐久市」のお隣、自然豊かな「東御市」。工房のある本店は、標高900mほどの丘陵地帯に位置しています。お庭から望む景色は、息を呑むほどビューティフル……!
ここは、スイス? お店のお庭で放牧されているヤギや羊ものびのびしています。
まりも
塩川さん、こんにちは。私、アトリエ・ド・フロマージュさんのチーズの大ファンなんです。特に、ブルーチーズが大好きで!
塩川さん
あ、本当ですか、嬉しいです! ブルーチーズは、僕がつくったので。
まりも
ええっ!? 世界に誇るあのブルーチーズをこの世に生みだした方が、今私の目の前に……!?
(塩川さんのように、国際的なチーズのコンペティションで最高賞を受賞している方は、日本国内では4人しかいらっしゃらないのです!)
塩川さん
日本のチーズ業界では、「カビの人」と呼ばれています(笑)
まりも
ものすごい方なのに、「カビの人」(笑)。塩川さん、いや塩川先生と呼ぶべきか……今日はよろしくお願いいたします!
世界に誇るチーズ職人が解説!チーズのつくり方
まりも
塩川さん、あらためて、チーズづくりの工程を教えていただけませんか?
塩川さん
それでは今日は特別に、普段はあまり入れないチーズ工房の中もご案内しながら、工程をご紹介していきますね。
工程① 集乳
塩川さん
まずは、朝、集乳するところからはじまります。
まりも
えっ、搾乳したてのミルクを、ご自身で取りに行っているんですか?
塩川さん
すべてではないですが、自分たちで集乳に行くんですよ。地元の牧場からいただいている「ホルスタイン」という種類の牛のミルクのほか、香ばしさを出す「ジャージー」と、深みを出す「ブラウンスイス」のミルクをブレンドしてチーズをつくっていて、ジャージーとブラウンスイスのミルクは、毎朝、育てている牛から私たちが直接集乳しています。
工程② 牛乳を温め、凝固させる
まりも
うわ~! すごい量の牛乳! 年間、どのくらいの牛乳をつかうんですか?
塩川さん
380トンぐらいですね。できるチーズの量は、年間42トンほどです。
工程③ 脱水し、成型する
塩川さん
かなりざっくりご説明すると、ここまでは(細かな工程の差はありますが)どのチーズも大体こんな感じです。
工程④ 熟成
塩川さん
チーズの種類によって明らかな違いが出るのは、ここ、「熟成」の工程からです。熟成とは、チーズ内部やチーズの保存環境にいる酵素・微生物が、チーズのタンパク質や脂質を分解してアミノ酸や脂肪酸などを生成することで、うまみを生みだす工程のこと。温度・湿度・時間などを細かく調整した、特殊な環境下で熟成していく必要があります。
「 リコッタチーズ 」のような「フレッシュタイプのチーズ」の場合は、熟成させずにそのまま店頭に並びます。また、「 軽井沢チーズ 」のような「セミハードタイプのチーズ」は、カードに重しを乗せてさらに脱水してから、長期間熟成していきます。
塩川さん
「カマンベール」や「ブリー」といった「白カビタイプのチーズ」は、成型後に白カビを吹き付けて、温度・湿度管理をした部屋で熟成していきます。
塩川さん
次は「ウォッシュタイプのチーズ」の熟成室にご案内します。
まりも
うわぁ~~~! 熟成室に充満する、このいい香り!
塩川さん
ウォッシュタイプのチーズは、塩水やアルコールでチーズの表皮を洗って熟成するチーズです。定期的に洗うことで、「リネンス菌」という菌が繁殖し、表皮がピンク色になっていきます。リネンス菌が、独特の強い香りやコクのある味わいを生みだしてくれるんです。
まりも
あれっ、いっくん、険しい顔をしているけど、どうしました?
(今回カメラマンを務めてくれたよなよなスタッフの「いっくん」は、ウォッシュチーズ特有の香りが苦手。撮影中は息を止めていたそう)
塩川さん
いっくん、苦手ですか! 苦手な方、多いですよね。一見クセがありそうですが、中身はクリーミーで意外と食べやすいチーズなんですよ。
チーズづくりにおける「菌の役割」と「重要性」
まりも
ここからは、今回の特集企画である「菌」にフォーカスして、お話を伺っていきたいと思います。塩川さん、チーズづくりにおける、「菌の役割」と「重要性」を教えていただけますか?
塩川さん
まず、チーズづくりに欠かせないのは、「乳酸菌」ですね。「凝乳酵素」という牛乳を固めるための酵素のはたらきを促進し、牛乳を固まりやすくしてくれます。加えて、乳酸菌には殺菌力もあります。乳酸菌が作り出す酸が、悪い菌を倒してくれるんです。
まりも
乳酸菌、とても重要な役割を果たしていますね。また、先程のご説明でウォッシュチーズ作りにはリネンス菌が重要なことは分かりました。他に「白カビ」や「青カビ」はどんな役割があるのでしょう?
塩川さん
白カビはタンパク質を分解する菌、青カビは脂質を分解する菌です。白カビが分解したタンパク質はアミノ酸を、青カビが分解した脂質は脂肪酸を生成してくれるおかげで、チーズの香りや食感が変化します。
まりも
なるほど~! カビのおかげでチーズがおいしくなっているんですね。でも、カビって世の中的には悪者のイメージですよね? チーズのカビは、パンやおもちを腐らせるカビとどう違うんでしょう?
塩川さん
それがですね、実は全く同じカビなんですが、チーズにつくと、カビが不安定になって毒素を出せなくなるんです。チーズに含まれている多くのたんぱく質と、アンモニア、そして低温熟成のおかげです。
まりも
チーズとカビの相性が、偶然にも最強だったんですね! これぞまさに、「最初に食べた人、すごい」……!
ところで、塩川さんのように国際的なチーズのコンペティションで最高賞を受賞している方は、国内ではほとんどいらっしゃらないのですよね。原料は「牛乳と菌や酵母のみ」と、とてもシンプルな食品ですが、「差」が出るのはどういったところなのでしょう?
塩川さんチーズっておもしろくて、同じ配合・温度管理でつくっても、毎回同じように出来上がらないんですよ。だから、いかにいい方向に「差」を出せるかどうかは、私たちの腕にかかっていて。
例えば、私たちのブルーチーズといえば無数の「穴」が特徴ですが、実はあのバランスを保つのが非常に大変なんです。穴が開いていると空気が通るので、うまくカビが生えます。水分を抜いて硬く作ればチーズに穴は開きやすくなるのですが、その分水分を多く抜いてしまうことになるので、カビは生えてもなめらかになりません。なめらかな状態を保ちつつ、綺麗にカビが生える穴を開ける技術が必要なんです。牛乳の状態や菌の繁殖状態を日々見ながら調整していきます。
まりも
チーズ職人の方々のすごさが、あらためてわかりました。塩川さん、ありがとうございます。
検証結果を発表! チーズとクラフトビールのマリアージュ
さて、みなさん。「チーズといえば、ワイン」をイメージされる方も多いと思いますが、実は、チーズとクラフトビールのマリアージュも最高なんです!
クラフトビールはビアスタイルごとに味わいが異なるため、ワインの種類によって合うチーズが変わるのと同じように、ビアスタイルによってチーズの相性も異なります。そこで今回は、アトリエ・ド・フロマージュさんと一緒に、各ビアスタイルに最も合うチーズを検証しました。
塩川さんのテイスティングアドバイス
チーズは、室温で30分ほどおくと、より風味が出ます。塩分も感じにくくなりますよ。
「よなよなエール」に最も合うチーズは、「セミハードタイプ」!
塩川さん
軽井沢チーズは、4~6ヵ月間軽井沢で長期熟成して、味に深みの出たセミハードタイプのチーズ。よなよなエールの苦みとの対比効果が生まれて、旨味がより強調されていますね!
まりも
編集部では、セミハードタイプのチーズを燻製した
「燻製硬質チーズ」
と一緒に食べると、ソーセージを食べているような味わいになり、おもしろいという意見も出ました。
「インドの青鬼」に最もあうチーズは、「青カビタイプ」!
塩川さん
インドの青鬼はパンチの効いたビールなので、同じくパンチの効いたブルーチーズがぴったり合いますね。ビールの後味にくる苦みに、ブルーのクリーミーさと甘味を感じます。
まりも
脂肪分が高めのチーズなので、インドの青鬼の苦みがいい感じに抑制されている気がします。苦みが苦手な方は、ちょうどいいかもしれません。
「水曜日のネコ」に最もあうチーズは、「白カビタイプ」!
塩川さん
ブリーと同じく白カビタイプのチーズの代表格「カマンベール」は、フランスのノルマンディー地方でうまれました。カマンベールは、同じくノルマンディーうまれのシードル(りんご酒)との相性が良いとされています。それを思い出して、りんごのようなフルーティーな香りの水曜日のネコとブリーの相性もいいのでは、と予測して食べてみたところ、予想的中。ばっちり合いました!
まりも
「モッツァレラチーズ」
との食べ合わせもユニーク! チーズの酸味と、水曜日のネコの酸味が引き立て合っている! 酸味が好きな方は、絶妙な組み合わせだと思います。
「軽井沢ビール クラフトザウルス ブラックIPA」に最もあうチーズは、「ウォッシュタイプ」!
※ウォッシュタイプに分類される一般的なチーズの例:「エポワス」「マンステール」など
塩川さん
ウォッシュ・オ・カルヴァドスは、りんごを原料とする蒸留酒で表皮をウォッシュしたチーズ。いっくんのように苦手な方も多いチーズですが、このビールと合わせるとクセのある香りが消えて、チーズの甘味と旨味が引き立ちますね。
まりも
本当ですね! ウォッシュチーズはクセが強いので、ビールの味が消えてしまうかも……と思っていましたが、相性抜群!
塩川さん
同じ黒ビールでも
「東京ブラック」
にはあまりあいませんね。
まりも
酸味がよくない方向に強調されていますね。同じ黒ビールなのにこうも違うなんておもしろいです。ちなみに東京ブラックには、ブルーチーズが合いました。ブラックの香ばしさとブルーの旨味が絶妙ですね。
アトリエ・ド・フロマージュとよなよなの里編集部が検証した際の見解です。同じチーズのタイプでも、種類や製品ごとに味わいは異なりますし、何よりもご自身が「おいしい!」と感じた組み合わせが「ベストマリアージュ」だと思いますので、ご参考までにご覧くださいね。
職人直伝、最適なチーズの保存方法
まりも
チーズの食べ比べ、今後も自宅で楽しみたいのですが、一度に色々な種類のチーズを買うと、一日で食べきれないことが多いです。チーズの最適な保存方法を教えていただけませんか?
塩川さん
ポイントは、冷蔵庫の野菜室に入れること。そのほかの場所だと、乾燥してしまいます。複数のチーズはできれば別に保存するほうがいいです。色の違うものは特に。
最適なチーズの保存方法
- 白カビや青カビタイプなどの柔らかいチーズ
濡れたペーパータオルを丸めて一緒に入れ、密閉容器で保存。長期保存をしたいときは、チーズにラップを巻くとなおよし。
- ハードタイプのチーズ
ラップで巻くだけ。カビがついてしまっても、そぎ落とせば食べられます。表面に油を塗っておけば、中まで乾燥しないのでおすすめ。
まりも
チーズごとに保存方法が異なるのですね、勉強になります!
塩川さん
それからもう一点。冷蔵庫保管の場合、納豆に要注意です。
まりも
納豆ですか?
塩川さん
納豆菌は、一度冷蔵庫に入れたら、冷蔵庫を丸洗いしないと消えないぐらい強い菌なんですよ。納豆と白カビチーズを同じ冷蔵庫に入れておくと、チーズが赤くなったり、粘りが出たり、匂いが移ったりします。ダメとはいいませんが、風味が落ちてしまいますね。
まりも
えええ! うちの冷蔵庫も、チーズを最高の状態で保管しておくためには、丸洗いしないといけないのか……。
あ、もしや、今回事前に「取材の前日から納豆は控えてください」とおっしゃっていたのもそのためですか?
塩川さん
そうなんです! 私は納豆が好きなのですが、年に2回ぐらいしか食べられません(笑)。
まりも
塩川さんが納豆欲を犠牲にしてくださっているおかげで、私たちはいつもこんなにおいしいチーズをいただくことができているんですね(笑)。
塩川さん、いつもおいしいチーズをありがとうございます。今日一日で、もっともっとチーズのことが好きになりました!
アトリエ・ド・フロマージュのチーズが買える場所
本日記事の中で出てきたチーズのほとんどは、アトリエ・ド・フロマージュのオンラインストアからお買い求めいただけます。
オンラインストア:
https://www.a-fromage.co.jp/shop
店頭では、オンラインストアで買えないチーズも販売しています。
「軽井沢チーズ熟成所」では、本日ご紹介した「軽井沢高原ビール クラフトザウルス ブラックIPA」のほか、軽井沢エリア限定のよなよなの里のビールもお買い求めいただけます。
店舗情報:
https://www.a-fromage.co.jp/archives/shops_data/stores/
チーズとクラフトビールのペアリング、ぜひお試しくださいね。