クラフトビールが格段においしくなる「飲み方のコツ」って? 味覚のプロが解説します(後編)
前後編にわたり、味覚のスペシャリスト・菅慎太郎さんにお話を聞いています。
前編では、五感のなかでも主に「嗅覚」と脳の感じ方について詳しくお話を伺い、そのうえでどうしたらおいしく飲めるのかについてご説明いただきました。
・はじめてのビールがまずいと感じるのは、人間みんな共通
・ビールがおいしく感じられるようになるのは、好意的な経験を積んでいくことによるもの
・好意的な経験を積むためには、「飲み方・飲む人・飲む場所」を意識することが重要
▼前編はこちら▼
本能的に「まずい」はずのビールになぜハマる? 味覚のプロに聞く、ビールがおいしくなるメカニズム(前編)
https://yonasato.com/column/professional_interview1/
後編ではよなよなスタッフ「まりも」が、実際にお店でビールと料理を食べ合わせながら、菅さんに「飲み方のコツ」を教えてもらいます。
話を聞いた人:菅 慎太郎さん
菅 慎太郎(かん・しんたろう):科学的な見地から人の味覚を研究する「味覚コンサルタント」。焼酎利酒師の資格を持ち、お酒と食べ物のマリアージュを探求しながら、味を起点とした商品開発や食育活動に携わる。
味覚のスペシャリストとしてメディアの出演も多く、日本テレビ『ぐるナイ』の特番「芸能人料理対決」で審査員をつとめたり、日本テレビ『月曜から夜更かし』では「神の舌を持つ男」と評されたことも!
取材場所:よなよなエール公式ビアレストラン「よなよなビアワークス」 新宿東口店
飲み比べたビール:よなよなエール・インドの青鬼・水曜日のネコ
飲み会は、はじめが肝心
菅さん:
さて、それでは料理を選びましょうか。
まりも:
私、チーズ大好きなんですよ。チーズを頼んでもいいですか?
菅さん:
あ! まりもさん。チーズは最後に、「酸味のあるもの」とあわせて頼んだほうがいいです。それから、スタート時は「辛いもの」も避けてください。
まりも:
チーズはすぐに提供してもらえるので、最初に頼みがちでした!
菅さん:
理由は後でご説明するので、今は別のものを頼みましょう。「生ハムと短角牛サラミの盛り合わせ」にしましょうか!
まりも:
うわ~! おいしそう! どれから食べようかな……
菅さん:
おっと! ちょっと待ってくださいね。お腹が空いていてつまみたくなるところですが、ここはグッとこらえて、まずはビールから! よなよなエールを香って飲んでみてください。「3ゴクリ」ぐらいです。
まりも:
あ~いい香り。
菅さん:
よなよなエールの香りがグワーッと出ますよね。香りで期待感が膨らむんです。それから、ビールが持つ苦みにはリフレッシュ効果があるので、はじめにフラットな状態をつくるためにも、まずはビールだけ味わってみてください。味のバランスがよく、香りに華やかさがあるよなよなエールが一杯目にはおすすめですね。
菅さん:
つぎは、生ハムを一口だけ口に運び、味わってみてください。
まりも:
あっ。しっかりお肉の旨味を感じますね。旨味が凝縮されてる。生ハムにこんなに向き合ったの、はじめてかも。
菅さん:
ここですぐビールを飲んでしまうと、塩味が洗い流されて肉の物性だけが残り、ただつまんでいるだけになってしまうんです。ビールが食べ物を流し込むだけの存在になってしまいかねない。
まりも:
たくさん生ハムを食べるとしょっぱくてビールが飲みたくなるので、少量ずつが重要なんですね。
生ハムで学ぶ、ペアリング理論
菅さん:
さて、ここから「ペアリング(ビールにあう料理の選び方)」に入っていきます。生ハムに最もあうのは、3種類のうちどれなのか。実践しながら体感してもらいましょう。
まずは、インドの青鬼から。生ハムを一口食べて味わった後に、インドの青鬼を少しだけ飲んでみてください。
まりも:
インドの青鬼が……甘い!!! 普段苦みに隠れている旨味もしっかり感じられる気がします。
菅さん:
「スイカに塩」と同じ効果です。生ハムの強い塩味で、インドの青鬼の甘味が引き出されるんです! 生ハムとインドの青鬼でちびちびやるのは、ツウな飲み方ですよ。
菅さん:
さて、次の水曜日のネコは、生ハムではなくサラミで試してみてください。
まりも:
あ~! 水曜日のネコの独特の風味が、まろやかに感じられます。
菅さん:
水曜日のネコは、他のビールと比べると香りにクセがありますよね。こういった香りの強いビールには、脂分が多くて濃いサラミやチョリソーがおすすめです。香りの強さと味の濃さの相互作用で、ちょうどよいフラットな味わいになりますよ。
最後は、生ハムとサラミをよなよなエールにあわせてみてください。
まりも:
なんというか……他の2種類に比べると普通ですね。というか何も残らない感じが。
菅さん:
そうなんです。よなよなエールは旨味を主体としているバランスのいいビールなので、塩味(生ハム)を与えると、旨味に塩がカバーされ、味をあまり感じず香りだけ浮いてしまう。
サラミの場合は、油も多く味が濃いので、よなよなエールの香りまで消されてサラミの味だけになってしまいます。ビールの味が消えてしまう。
まりも:
定番ビールとしてよなよなエールをあわせがちでしたが、意外と難しい!
菅さん:
なんとなく、生ハムでちょっと感覚がつかめてきましたよね? ここで、ペアリングのコツをお伝えします。
味覚のスペシャリストが教える、ビールのタイプ別「ペアリングのコツ」
ペアリングには「調和、強調、抑制」の主に3つのタイプがあります。バランスの良いビールは、口内の味を「調和」させることに長けており、味に特徴があるビールは、食事と合わせることで、おいしさとなる味をより引き立てて「強調」してくれるわけです。そして香りに特徴のあるビールは、料理の中にあるネガティブな味を「抑制」して心地よい余韻を作ってくれます。
■バランスのよいビール(例:よなよなエールなど)
肉や魚の素材の味を引き出す料理と合わせることで、素材や料理の味を壊さず調和のとれたおいしさを感じさせてくれる。
口をリセットしたいとき、華やかな香りを残しつつ、口内のネガティブな味わいをリフレッシュしてくれる効果も。
ただし、味が濃いものや脂っこいものなど、重たい料理とあわせるとビールの香りを感じにくくなってしまうので注意。
■味に特徴のあるビール(例:インドの青鬼など)
塩味の強いおつまみや揚げ物にあわせるのがおすすめ。隠れているビールの甘味や旨味を引き出してくれる。
■香りに特徴のあるビール(例:水曜日のネコなど)
特徴的で強い香りをもつビールは、脂分が多く重たい料理と好相性。特に、ピザやグラタンなど温めて香りの出るものとあわせると、香り同士のバランスがとれておいしさが増す。
ペアリングにピンとこない方に絶対試してほしい!「水曜日のネコ×職人ソーセージ」
まりも:
生ハムだけで30分が経過してしまいました(笑)
菅さん:
この後は、先ほどのペアリングのコツを応用していくだけなのでご安心ください(笑)
次は、「職人ソーセージ 元祖かぶらぎ豚」にしましょう。……なんとなく、どのビールがあうか想像できますよね?
まりも:
塩味なので、インドの青鬼ですか?
菅さん:
たしかに、市販のソーセージであればインドの青鬼があうかもしれないですね! このソーセージは、ジューシーな肉の油と旨味が際立っているので……
まりも:
水曜日のネコ……ですか?
菅さん:
そうです! さて、あわせてみましょう。
菅さん:
……あ、やっぱりこの組み合わせ、素晴らしいですね。今日の大勝利です。ペアリングってあんまりピンとこないな、という方はこれをまず試してみてほしいですね。
まりも:
よなよなの里では、水曜日のネコには軽やかな料理をあわせることが多いので、正直意外だったんですが……ものすごくあいますね。どちらの味も、単体で食べるよりも確実に引き立っています。
菅さん:
このソーセージは家じゃ絶対に作れないし、ビールも最高な状況で提供してもらえるお店だからこそなんです。こういう経験を積み重ねていると、次に水曜日のネコとソーセージの香りを嗅いだ時に良い記憶が呼び起こされて、期待感が高まり、よりおいしく感じるようになっていくんですね。
本能を刺激! 苦味×辛味=超苦い!
菅さん:
次は、「真タコのセビーチェ」ですね。さて、どう感じましたか?
まりも:
インドの青鬼が……ものすごく苦い! 生ハムの時と大違いです。
菅さん:
このセビーチェ、結構辛いですよね。辛味は痛点を刺激するので、安全確認機能の中でも最優先される感覚です。安全確認機能が働くことで、もうひとつ本能的に危険だと感じる感覚の「苦味」に無意識にフォーカスしてしまうんです。
まりも:
より苦味を感じやすくなるってことですね!
菅さん:
苦味が強調されるので、インドの青鬼の苦さが大好きという方はいいかもしれませんね。
ただ、香りは弱く感じてしまうので、苦味好きではない一般の方にはよなよなエールがおすすめです。辛味が残っている口内をリフレッシュしてくれて、最後にふっと抜ける華やかなビールの香りが残るんですよ。
「食べる順番」を変えるだけで、世界が変わる!
まりも:
菅さん、そろそろ「チーズの盛り合わせ」をいただいてもいいですか?
菅さん:
ちょうどお腹も膨れてきて、ちょうどいい頃合いですね! 「季節野菜のエール漬けピクルス」も注文しましょう。
まりも:
先ほど、チーズは最初に食べないほうがよい、とおっしゃっていましたが、なぜでしょう?
菅さん:
チーズの油脂が舌に膜を貼ってしまい、味が散漫になるので、その後口に入れるビールや料理のおいしさが半減してしまうからです。ですから、なるべく終盤で注文することをおすすめします。特に、辛いものなど、刺激の強いものを食べた後のほうがよいです。
まりも:
辛いものですか?
菅さん:
先ほど「よなよなエールが辛味の残った口内をリフレッシュしてくれる」とお伝えしましたが、それだけではカバーしきれない辛味の刺激を、チーズの油分がマスキングしてくれるんです。
例えば今日で言えば、セビーチェ(辛い物)を食べた後、よなよなエールを飲んで口内をリフレッシュし、そのあとにチーズを食べるという順番がおすすめです。
まりも:
食べる順番が重要なんですね! あれっ、そういえばピクルスも一緒に注文しましたよね?
菅さん:
そう、チーズの後にはピクルスのように酸味のあるものを食べていただきたいんですよ。チーズでマスキングされた口内がリフレッシュされます。
ピクルス単体だとビールとのペアリングはなかなか難しいのですが、酸味のあるものを食べることによって、食事のあとの満足感が変わります。
コツさえ掴めば、「楽しむためにビールを飲む」ことができる
まりも:
菅さん、この食事の時間で、私のQOL(Quality of life=クオリティ オブ ライフ)が爆上がりしました。
菅さん:
よかったです。こうやって原理原則を知れば知るほど、単なるビールっていう選択肢から一歩出て、「楽しむためにビールを飲む」ことができる。奥深いですよね。
私の目標は、世界平和なんです(笑)
唐突に思えるかもしれませんが、これにはロジックがあって……おいしいものを食べれば、イライラがおさまったり気持ちが晴れたりしますよね。だから、おいしいものを食べられる人が増えれば、きっと世界は平和になるはずです。今回の食べ合わせのテクニックも、専門家だけのものではなくて、できるだけたくさんの人に知ってもらいたいんです。
まりも:
今回の食事体験を通して、菅さんのおっしゃる意味がよくわかりました。この記事をみて、「飲み方・飲む場所・飲む人」を意識しながら実践してくれる方がひとりでも増えたら嬉しいです。
撮影・フード提供協力:よなよなエール公式ビアレストラン「よなよなビアワークス」
https://yonayonabeerworks.com/
ペアリングについてもっと知りたくなった方へ
菅さんにペアリングのコツを聞いて「もっとペアリングについて知りたい!」と思った方へ、よなよなの里の記事をいくつかご紹介します!
■よなよなの里で紹介しているペアリングのコツは、こちらから
https://yonasato.com/column/recipe_2/
■ビール別にぴったりなおつまみを知りたい方は、こちらから
(リンクをタップ後、「ぴったりなおつまみ」の欄までスクロール!)
「よなよなエール」
https://yonasato.com/ec/product/yonayona_ale