ベルギービールとは?その特徴や初心者向けの銘柄を紹介!
チョコレートやワッフルなど、世界に誇る食文化の根付く国・ベルギー。実はそんなベルギーは、世界有数のビール大国でもあるんです。ベルギービールにはどのような特徴があるのでしょうか。ビールメーカーが解説します!
この記事を監修した人:やっほ~さん
ニックネーム:やっほ~
一般財団法人 日本ベルギービール・プロフェッショナル協会
認定のベルギービールプロフェッショナル。
ヤッホーブルーイング創業年の1996年から同社のビールを飲んでおり、これまで「よなよなエールの超宴」をはじめ多くのイベントにも参加。1番好きなヤッホーブルーイングのビールは「前略 好みなんて聞いてないぜSORRY 其の四 」
ベルギービールの特徴は?ほかのビールとの違い
ベルギービールといっても、その特徴は実に様々。ここでは代表的な特徴を3つ紹介します。
特徴①:色々な原材料で自由にビールがつくれるため種類が豊富
ベルギービールの特徴は、その種類の多さ。なんとベルギーでは1500種以上の銘柄がつくられているともいわれており、味わい・香り・色・アルコール度数・発酵方法…など、バラエティ豊かなビールがあります。(ベルギービールの種類について詳しくは こちらの章 で!)
ここまでいろいろなビールができた理由は、色々な原材料で自由にビールがつくれるため。お隣のビール大国・ドイツでは、「ビール純粋令」という法律で麦芽・ホップ・水・酵母のみをビールの原料とする、と定められています。一方でベルギーではそのような制限がなかったため、色々なフルーツやスパイスを使って自由にビールをつくれたのです。
【ポイント】
日本でも麦芽・ホップ・水・酵母以外でビールづくりに使っていいフルーツなどの原材料が法律で決まっています。麦芽の使用比率や使った原材料によってビール or 発泡酒と呼ぶかが決まります。詳しくはこちらの記事で解説!
ビールと発泡酒の違いってなに?クラフトビールメーカーが解説します
特徴②:ユニークな4種類の発酵方法
ベルギービールは世界で唯一、4種類の発酵方法を持つことも特徴で、つくりたいビールによって自在に発酵方法を使い分けます。特にベルギーの伝統的な自然発酵や複合発酵では、通常の製法では出せないような独特の味わいを持つビールになります。
(1)下面発酵:ラガー酵母を使って5℃前後の低温で7~10日発酵させる、ラガービールの発酵方法。
(2)上面発酵:エール酵母を使って20℃前後の温度で3~4日発酵させる、エールビールの発酵方法。
(3)自然発酵:空気中の野生酵母で自然発酵させるユニークな発酵方法。酸味のあるビールになる。
(4)複合発酵:いろいろな酵母や微生物、発酵方法を組み合わせた製法。上面発酵ビールをオーク樽に長期間寝かせて乳酸菌で発酵させた後、比較的熟成の浅い上面発酵ビールをブレンドしてつくるものがメジャー。
厳密にはベルギー以外の国でも、自然発酵や複合発酵を取り入れるブルワリーが登場してきました。しかしベルギーほど4つの発酵方法を使い分け、無限の多様性をもつビールづくりを続けてきた国は唯一無二でしょう。
特徴③:銘柄ごとの専用グラスが豊富!
日本ではビールをジョッキや足つきのグラスで飲むことが多く、その形もあまり大きくは変わりません。一方でベルギービールは、画像にあるように銘柄ごとのユニークな専用グラスが豊富なのも特徴。お店ではビールに合わせてグラスを変えて出してくれることも多く、見た目でも楽しめますね。
またビールに合ったオリジナルコースターも豊富で、ベルギービールファンにとってはグラスやコースターを集めるのが1つの楽しみなんだとか。
ベルギービールの歴史
紀元前56年のユリウス・カエサルの手記にて、現在のベルギーにもあたるフランス~ライン東岸エリアを平定したころ、ビールが飲まれていたとされています。
ちなみに2016年には「ベルギービール文化」がユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。ベルギービールの多様性や伝統を守り抜いてきた歴史、地元の農産物を使うなど地域に根ざしたビールづくりが総合的に評価されたようです。
修道院でつくられたのがベルギービール発展のきっかけ
ベルギーでビールが本格的につくられたのは、中世に修道院でつくられたのが始まりといわれています。当時、不衛生な飲み水の影響で疫病が流行したことを受け、修道士が保存しやすい自然発酵のビールを巡礼者向けにふるまっていたのだそう。
またベルギーは緯度が高い影響で良質なブドウが育ちづらく、ワインが発展しなかった代わりにビール熱が高まったともいわれています。
ベルギービールウィークエンドでその味わいや世界観を体感できる
ベルギーのブリュッセルでは、1999年から毎年9月の第一週末に「ベルギービールウィークエンド」というベルギーのビール文化を楽しむイベントが行われています。ベルギービールウィークエンドは日本でも東京・大阪・名古屋・福岡といった主要都市で行われており、毎年多くの賑わいを見せています。
▼ベルギービールの味わいや世界観が楽しく学べるので、気になる方は遊びに行ってみては?
ベルギービールウィークエンドJAPAN
ベルギービールの種類
ベルギービールの種類・呼び方で混乱するのが、原材料や製法に由来するものもあれば、製造元に由来するものなど様々なタイプ乱立している点。明確な区分はないものの、ここでは味や製法、地域性などをもとにベルギービールを大きく10個のタイプに分けてみました。
※ベルギービールの銘柄は1500以上もあるので、中にはここに属さないものや複数のタイプにまたがるものも存在します。
ピルスナー(ピルス)
日本国内でもスーパードライや一番搾りで馴染みのあるタイプです。すっきりとした喉越しやキレのよさが特徴で、ベルギーでも消費される約70%がこのピルスナーにあたります。ベルギーでは「ピルス」と呼ばれることも覚えておくとよいでしょう。
ホワイトビール
原材料に大麦麦芽だけでなく、小麦麦芽を使ったベルギービールの総称。オレンジピール、コリアンダーを使うことが多く、しばしば「ベルジャンホワイト」とも呼ばれ、まろやかな香りが楽しめます。
※小麦麦芽を使った似たタイプのビールに「ヴァイツェン」がありますが、これはドイツ発祥のビールです。
▼ベルジャンホワイトについて、こちらで解説しています。
ベルジャンホワイト(Belgian White)ってどんなビール?
トラピストビール
「Trappist(=キリスト教修道会の一派)」の名の通り、トラピスト会の特定の修道院内でつくられるビールの総称。数あるトラピスト会修道院の中でも、「トラピストビール」を名乗れるのはわずか11カ所の修道院でつくられたビールのみ。また、ATP( Authentic Trappist Product) のロゴマークをつけられるのは9カ所に絞られ、その内5カ所がベルギーにあります(2024年9月時点)。
- 「トラピストビール」を名乗る要件
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「トラピストビール」を名乗るには、1962年に定められた以下の要件を満たさなければなりません。
1.修道士が自ら醸造するか、修道士の監督のもとで醸造されたものであること
2.修道院の敷地内にある醸造所でつくられていること
3.営利目的ではなく、ビールの販売による収益は修道院の運営やメンテナンスにあて、残りは慈善団体に寄付すること厳密には「トラピストビール」はビールのタイプではありませんが、いずれも個性的でアルコール度数が高めのものが多いです。
ちなみにシント・シクスタス修道院の「ウエストフレテレン アブト12」というトラピストビールは、国際的なビールランキングサイトで1位になったこともあり、しばしば「世界一のビール」とも称されています。
アビィビール
アビィビールとは、分かりやすくいえば「トラピストビールをリスペクトした派生型」のようなもので、味わいもトラピストビールに似たものが多めです。トラピスト会以外の修道院がつくったものや、委託された一般の醸造所がかつて修道院で採用されていた製法でつくったビールがアビィビールにあたります。
セゾン
セゾンはベルギー南部のワロン地方で、夏の農作業の合間に飲むためにつくられていたビール。夏向けというだけあり、爽やかでスッキリとした味わいのものが多いビールです。元々は農家が冬の間に仕込んでおき、瓶に詰めた後も発酵して完成する「瓶内二次発酵」という製法でつくられていました。
▼セゾンについて、こちらで解説しています。
セゾン(Saison)ってどんなビール?
ランビック
ランビックは伝統的なベルギービールの1つで、大気中の野生酵母や微生物を利用して自然発酵させてつくります。強い酸味と野性的な香りが特徴で、そのままだと飲みづらいこともあるため、フルーツを混ぜるなどしたバラエティに富んだ銘柄が展開されています。ちなみにベルギーの首都ブリュッセル郊外がランビックの主な産地です。
フルーツビール
その名の通りフルーツを使ったビールの総称。漬け込むフルーツも、ベースとなるビールのタイプも実に様々で自由度の高いビールです。ランビックにチェリーや木苺を漬け込んだ酸味のあるものが伝統的ですが、最近のトレンドに合わせ甘くフルーティーなビールも増えてきています。
レッドビール
赤大麦を使用するレッドビールは、その名の通り赤〜赤茶っぽい色味と、爽やかな酸味が特徴のビールです。主に西フランダース地方でつくられ、上面発酵させたビールをオーク樽に長期間寝かせて乳酸菌で発酵させた後、比較的熟成の浅い上面発酵ビールをブレンドしてつくるものがメジャー(複合発酵)。
ゴールデンエール
ゴールデン(=金色の)というだけあって淡くきれいな金色をしたビールで、爽やかな香りとバランスのとれた味わいが特徴の、飲みやすいビールの代表格。発祥地には諸説ありますが、アメリカン、イングリッシュ、ベルジャンなどいろいろな国の風土に寄せたゴールデンエールが登場しています。お店やメーカーによっては「ブロンドビール」とも呼ばれます。
▼ゴールデンエールについて、こちらで解説しています。
ゴールデンエール(Golden Ale)ってどんなビール?
スペシャルビール
いわばこれまでの分類に属さない、地方の地ビールのこと。ベルギー全国に出回らず、生産地域だけで消費されるビールです。多くは大麦麦芽のみでつくられ、ハーブやスパイスといった原材料や樽熟成などの特殊な製法も使われないことがほとんど。色はアンバー(茶色がかった)なものが多いです。
その他:ベルジャンIPA
ベルジャン酵母を使うなど、ベルギースタイルでつくられたIPA(インディアペールエール)の総称。ベルジャン酵母由来のフルーティーな香りもありつつ、IPAらしいホップの苦味や飲みごたえも感じられるのが特徴です。ベルジャンIPAの発祥自体はアメリカといわれ、純粋なベルギービールではないものの、日本でも一部で人気のあるタイプです。
ベルギービールに縁のあるヤッホーブルーイングのビール
実はわたしたちヤッホーブルーイングでも、ベルギービールに縁のあるクラフトビールをつくっています。
水曜日のネコ
〇スタイル:ベルジャンホワイト
ベルギー発祥のベルジャンホワイトエール。スパイスにオレンジピールとコリアンダーシードを使用しているため、爽やかな香りと甘酸っぱい味わいが楽しめます。苦みがとても弱く、原材料の小麦麦芽によりやわらかな口当たりに仕上がっているため、普段ビールを飲まない方にもおすすめのビールです(製品ページは
こちら
)。
僕ビール君ビール
〇スタイル:セゾン
ベルギーで農作業の合間に喉を潤すために飲まれていたセゾンビールをアレンジ。レモンやマスカット、ハーブを思わせる軽快な香りと、スッと抜ける爽やかな苦み。アルコール度数は4.5%に抑え、軽快な飲み口が特徴です。食事のタイミングはもちろん、リフレッシュの時間に寄り添う、軽やかなビールです(製品ページは
こちら
)。
裏通りのドンダバダ
〇スタイル:フリースタイルベルジャンゴールデンエール
ベルギーの伝統的なビアスタイルであるゴールデンエールをベースにしつつも、既存の製法に囚われずモダンに再構築したビール。ベルギー酵母由来の香りとホップの香りが複雑に重なることで、ワインのシャルドネを思わせる爽やかな香りが特徴です。(製品ページは
こちら
)。
おすすめベルギービール6選
さらに見かけたら飲んでおきたい、代表的なベルギービールのおすすめを6つ紹介します。
ヒューガルデンホワイト
〇タイプ:ベルジャンホワイト
〇醸造所: ヒューガルデン醸造所
オレンジピールとコリアンダーシードの完璧な組み合わせが生み出す自然な苦味と、特有の清涼感、小麦から生まれる甘みに、オレンジピールのほろ苦いフルーティーさ、コリアンダーシードのスパイシーさが加わった特徴的な味わい。(
公式サイト
)
シメイブルー
〇タイプ:トラピストビール
〇醸造所: スクールモン修道院
世界で9カ所の修道院でつくったものしか名乗れないトラピストビールの中でも、最もよく知られたビール。カラメルのような香ばしさに、柑橘系のフルーティーな香り。アルコール度数は9%と高く、濃厚なボディでスパイシーな味わい。もとはクリスマス向けにリリースされたものの、人気が集まり通年生産されている。シメイシリーズはほかにもたくさんある。(
公式サイト
)
デリリウム トレメンス
〇タイプ:ゴールデンエール(ブロンドビールとも)
〇醸造所: ヒューグ醸造所
ヒューグ醸造所の看板ビールで、ラテン語で「アルコール中毒による幻覚症状」という意味を持つ「デリリウム・トレメンス」。りんごやバナナなどのフルーティーで甘い香りのほか、クローブなどのスパイス香も。味わいも香りのようにフルーティーで甘みを感じるが、アルコール8.5%の飲みごたえもある。(
公式サイト
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デリリウム トレメンスのほか、直輸入のベルギービールが楽しめる「リトル デリリウムカフェ ハレザ池袋」「ベルギービール カフェ ベル・オーブ 東京芸術劇場」を取材した時の様子はこちら!
池袋でクラフトビールが飲めるお店11選|ビール屋スタッフが厳選!
デュベル
〇タイプ:ゴールデンエール
〇醸造所: モルトガット醸造所
「世界一魔性を秘めたビール」とも称される、ゴールデン・エールの代表格。柑橘系の香りだけでなくクローブやコリアンダーのようなスパイシーさも感じられる。口当たりはまろやかで、8.5%と高アルコールながら飲みやすさもある。(
公式サイト
)
セゾンデュポン
〇タイプ:セゾン
〇醸造所: デュポン醸造所
1844年から続く老舗醸造所の看板ビール。セゾンらしくホップの爽やかな香りや酸味が楽しめる逸品で、飲みごたえを感じながらもすっきりと飲める。小規模醸造ながら、今日まで世界中で親しまれている代表的なセゾンビールの1つ。(
公式サイト
)
ドゥシャス デ ブルゴーニュ
〇タイプ:レッドビール
〇醸造所: ヴェルハーゲ醸造所
オーク樽で18か月熟成させたビールに、8か月熟成した若いビールをブレンドしたレッドビール。ブラックチェリーやパッションフルーツなどの酸味を思わせる香り。味わいはそこまで酸っぱくなく、甘みもあってバランスのよい味わい。(
公式サイト
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知れば知るほどに奥深いベルギービール
今回ご紹介した特徴や種類以外にも、まだまだベルギービールにはたくさんの世界が広がっています。地域に根ざした小規模な醸造所たちがつくるビールは、どれも地元の農産物を使っていたり、変わったレシピにチャレンジしたりするものもあり、個性的な味わいばかり。最近では日本でもベルギービールに特化したビアフェスやビアバーも増えてきているので、ぜひ奥深いベルギービールの世界に飛び込んでみましょう!