世界一のヴィーガンレストラン「菜道」に聞く、「野菜のごちそう」のつくり方。
こんにちは。「よなよなエール」のメーカー・ヤッホーブルーイングのスタッフ「いっくん」です。
突然ですが皆さま、肉は好きですか?
炭火で焼いた焼き鳥、仲間で囲む焼肉、冬に食べるすき焼き……などなど、おいしい肉料理はこの世にたくさん。そこにビールがあったらもう、言うことなし! なんて方も多いのではないでしょうか。私もそのクチ。揚げたてのハムカツがあれば、それだけでビール1本軽く空けてしまうくらいの、肉×ビール好きです。
私のような肉好きがいる一方で、肉や魚、乳製品などの動物性の素材を一切摂らない、ヴィーガン(Vegan、ビーガンとも)というライフスタイルが世界的に広がっています。環境問題・動物愛護・健康への意識の高まりもあってか、ヴィーガン対応の製品開発に取り組む日本の企業も増え、ヴィーガンはごく身近な存在になってきました。
そしてこれは懺悔なのですが、私、ヴィーガン料理(やベジタリアン料理)というのを少々侮っておりました。「味が薄くて淡泊」「ボリューム感がない」「食べ応えがない」、そんな印象がちょーーーっとだけ、あったのです。
……ですがすみません。その考え、間違いでした。
冒頭で出てきたこの串焼き。見た目はもう完全に焼き鳥なのですが、実は野菜のみでつくられているヴィーガン料理なんです。でもってこの串焼きがですね……
食べてみたら思わずにんまりしちゃうくらいウマいし……
よなよなエールとの相性も最高なんですよ……!!
こーんなカツも、
餡がたっぷりかかった唐揚げも、全部ヴィーガン料理。
しかも、焼き鳥は焼き鳥の、カツはカツの、唐揚げは唐揚げの食感なんです。噛むとジュワッとうま味が出てくるのも、まさにお肉を食べている感覚! ジューシーな味わいがビールにもピッタリあっていて、ヴィーガン料理への印象が180度変わってしまいました。
これらの料理を味わえるのが、東京・自由が丘にあるレストラン「菜道(さいどう)」。2018年にオープンしてからわずか1年で、世界中のヴィーガンやベジタリアンが利用するレストラン情報サイト「Happycow(ハッピーカウ)」の「ベスト・ヴィーガンレストラン」部門・世界1位を獲得したこともある「世界一のヴィーガンレストラン」です。
今回は「フードダイバーシティ(食の多様性)」というコンセプトを掲げる「菜道」で、ヴィーガンやお酒のこと、おいしい野菜のごちそうをつくるコツを伺ってきました。私たちは「ビールで世界中の方を幸せにしたい!」と日々活動しているビールメーカー。ヴィーガンがどんな方で、どんな食を楽しんでいるのか?を知ることにも、とっても意味があるのです!
記事の最後では、今回特別に教えていただいた「自宅でつくることが出来て、インドの青鬼(IPA)にもあう麻婆豆腐のレシピ」を紹介しております。ぜひ最後までご覧ください!
話を聞いた人:楠本勝三さん
1975年生まれ、岡山県出身。調理師専門学校卒業後、都内ホテル、レストランでフランス料理修行経験を積むが、繊細な味わいに魅かれ和食に転向。いくつかの和食の店でさらに研磨を積み、フレンチの要素を取り入れた独自のスタイルを確立、2010年から都内の会員制和食店に料理長として迎えられ9年間都内会員制レストラン店主歴任。2019年2月に株式会社Funfair入社、ヴィーガンレストラン「菜道」、マレーシア「Samurai Ramen Umami Premium」のメニュー監修を担当。菜道を開店してからは、世界中から訪れるインバウンド客が途絶えず、世界中のヴィーガン/ベジタリアンに最も利用されているレストラン情報サイト「Happycow(ハッピーカウ)」で世界1位を獲得した。
ベジタリアンとヴィーガンの違い
「ベジタリアン」も「ヴィーガン」も、どちらも野菜中心の食生活を送る人のことですが、ベジタリアンは総称で、ヴィーガンはベジタリアンの中でも厳格な菜食主義の方のことを差します※1。
ベジタリアンは、実は種類が沢山! 野菜と乳製品を食べる「ラクト・ベジタリアン」や、それらに加えて卵も食べられる「ラクト・オボ・ベジタリアン」、さらには「魚は食べてもOK」「お肉の中でも鶏肉ならOK」といったベジタリアンの方もいるんですよ。
一方ヴィーガンは「菜食のみ」。動物性の素材は一切口にしません。菜食主義の中でも、特に厳しい決まりがあるのが「ヴィーガン」です。
「菜道」では上記の方に加え、ニラ・ニンニク・ネギ・ラッキョウ・アサツキを食べない「オリエンタル・ヴィーガン」※2の方や、お酒が禁じられているイスラム教徒の方など、食の禁忌があるすべての方に対応が出来るような食事を提供されています。
※1……記事中では食のことに焦点を当てて説明していますが、本来「ヴィーガン(Vegan)」は食だけでなく生活に関わるものすべてから、動物由来のものを可能な限り避ける立場を取る人・ライフスタイルのことを指します。
※2……台湾などに多い厳格な仏教徒で、動物性食品に加えニラ、ニンニク、ネギ、ラッキョウ、アサツキ(これらの食材は「五葷」(ごくん)と言われます)を食べない人たちのこと。ちなみに日本の伝統的な精進料理にも、これらの食材は使われていません。
全ての人が我慢せず、同じ食卓を囲めるように
いっくん:
「菜道」のようなベジタリアン・ヴィーガン対応のレストランって、結構増えてきているんでしょうか?
楠本さん:
ここ1、2年ですごく増えましたね。オリンピックの影響もあると思いますが、食品メーカーさんがベジタリアン・ヴィーガン対応の製品をつくることが増えたのも一因ではないかと。ポピュラーなのは、大豆ミートとかですね。SDGsという明確な目標ができたので、どの企業さんも取り組み始めているんだと思います。
いっくん:
お客さんはどんな方が多いんですか?
楠本さん:
最近は、環境意識の高い若い世代の方が多いですね。週に1食を菜食に変えることで、環境に貢献出来るなら取り入れてみようかな……とか、そういう方が増えてきているなという印象です。おかげさまで、連日予約で満席です。
いっくん:
確かに環境問題や動物愛護的な観点で、菜食を選択している方も多いですよね。
楠本さん:
そうですね。エシカルな面で菜食を選ばれる方も多い。ただ「菜道」が謳っているのは、「フードダイバーシティ(食の多様性)」に対応しているお店ですよ、ということで。
普段から肉や魚を食べている方でも「おいしい」と感じられるものつくりたいんです。
ヴィーガンの方だけ、イスラム教徒の方だけが食べられる・楽しめる食事だと、多様性対応としては不十分なんじゃないかなと。お肉を食べたりお酒を飲む人間も含め、全員で同じ食卓を囲んだ時に、誰も我慢しなくていい環境こそが、本当の「食の多様性対応」なんじゃないかなと思っていて、「菜道」はそこを目指していますね。
いっくん:
確かに自分も「これなら毎日でも食べられる……!」って感じでした。
楠本さん:
ありがとうございます(笑) 日本だと昔から精進料理がありますから、野菜料理というと「淡泊で、正直おいしくない」というネガティブなイメージを持たれる方も多いんですよね。だからこそ、菜道の料理に関しては、塩味・食べ応え・ボリューム感はすごく意識してつくっています。
しかも、やっぱり野菜なのでとてもヘルシーなんです。カツに関していえば、普通のトンカツの10分の1程度のカロリーですし、ダイエットしたい方はもちろん、食事制限がある方でも食事を楽しんでいただけるんじゃないかなあと。
いっくん:
「菜道」の近所に引っ越したい……。
「菜道」のカツ。しっかりカツの食感で最高でした。作り方や材料に関しては企業秘密とのこと! 技術の流出を防ぐため、少人数で店舗を運営されているそう。
ヴィーガンの方でも飲めるビールとは?
いっくん:
すごく基本的な質問なのですが、ヴィーガンの方でもお酒って飲めるんですか?
楠本さん:
飲めますよ! 動物性の素材を原材料とか、製造工程に使用していなければ大丈夫で、酵母や麹などの菌・微生物は問題ないので。
いっくん:
そうだったんですね! じゃあ私たちのビールでいうと、「よなよなエール」や「インドの青鬼」などの定番ビールは安心して飲んでいただけそうです。
「菜道」には、楠本さんが選んだこだわりのお酒がたくさん。
楠本さん:
黒ビールで有名な「ギネス」が、ビールの清澄に動物性素材のアイシングラス※を使わなくなったというのが以前ニュースになってましたが、ヤッホーブルーイングさんでは使用してないんですか?
※……魚の浮き袋を精製して乾燥したもので、コラーゲンが主な成分。古くからビールやワインの清澄剤として用いられていました。
いっくん:
過去に使っていたことはあるんですが、今は使用してませんね。
ただ、「前略 好みなんて 聞いてないぜSORRY 其ノ二」には鰹節を使用していたりとか、たまに「乳糖(乳由来の糖)」を使用したビールも醸造しているので、そういったものとそうじゃないものの違いが分かるように、お客様にお伝えしていければ……と思いました。
原材料にかつお節をつかった「前略 好みなんて 聞いてないぜSORRY 其ノ二」(不定期で販売中)
楠本さん:
いいですね。ヴィーガンの方でもお酒が好きな方っていうのはいらっしゃいますし、そういった方に安心して飲んでいただければ、お互いにハッピーですから。
いっくん:
動物性素材を使ったビールも、そうじゃないビールも、同じ醸造設備でつくっているというのは問題ないんですかね……?
楠本さん:
それは人によるところですね。ヴィーガンの方の中にも「同じ所でつくっているのなら飲みません」という方もいるし「それぐらいなら許容出来るよ」という方もいるんです。「どんなところで、どんなふうにつくっています」というのをお伝えすることが重要で。そうしたら、ご自身で判断して選んでくれますからね。
「菜道」では、ヴィーガン認証を取得しているお酒もありますし、そうじゃないお酒もあります。どちらのお酒にも動物性の素材は使われていませんが、認証マークがないとダメだというお客様も居れば、こちらからご説明すれば安心していただけるお客様もいらっしゃるんです。大切なのは、選択肢を用意することなんだと思います。
ルールに縛られず、「野菜のごちそう」をつくる
いっくん:
今日いただいた料理のような「野菜のごちそう」をつくるコツってあるのでしょうか?そういった調理法や素材など……?
楠本さん:
具体的なことは話せないのですが……まず、調理でいうと「ルールを破る」っていうのは「菜道」でよくやっています。
いっくん:
ルールを破る?
楠本さん:
例えば精進料理のルール。
しいたけと昆布と大豆で精進出汁を取りました。普通ならそこで完成なんですが、それだけだと(普段味の濃いものを食べている人にとっては)とても淡泊な味わいです。じゃあその出汁と具材をそのまま「ポタージュ」にしちゃえば、味が濃くなるな、とか。
いっくん:
考えたこともなかったですが、確かにおいしそう!
楠本さん:
精進料理のルールで考えると「汁ものを濁すなんてとんでもない」のですが、そういうルールを無視してもいいのなら、よりうま味の強い・味の濃い、おいしいものができるんです。
いっくん:
なるほど、だから「ルールを破る」なんですね。
楠本さん:
他にも、一度取った出汁に、もう一回新しい具材を入れてさらに出汁を取れば、うま味のつよい汁がつくれるよな……とか。これは日本酒の一種である「貴醸酒」の作り方に似ているんです。従来の料理法や、様々な所から得た知見を組み合わせれば、野菜だけでも十分においしいものができるんですよ。
知らないだけで、面白い食材は沢山ある
楠本さん:
「野菜のごちそう」をつくるための素材ですが、例えばこんなものがあります。
いっくん:
握りこぶしくらい大きいシイタケだ……!
楠本さん:
このしいたけって1個1500円くらいするんです。しかも調理に使おうと思ったら、まず水で戻すのに2日もかかる。それからやっと調理ができるんです。
いっくん:
めちゃめちゃ手間がかかりますね……。
楠本さん:
もちろんその分、おいしいんですけどね。普段肉や魚を食べている僕たちが知らないだけで、こういう食材は実は沢山あるんです。他にも、これとか。
いっくん:
お塩?
楠本さん:
「菜道」では5種類の塩を料理ごとに分けて使っていて。手前の白い塩は、エジプトの砂漠で採れる塩。日本でよくある海塩や、岩塩ともまた違う「砂漠塩」なんです。ちょっと甘みやうま味があるような塩なんですけど、シンプルな野菜の天ぷらを、海の塩で食べるのか、この塩で食べるのかでも全然印象が違うんですよ。
いっくん:
(舐めてみて)なるほど……?
楠本さん:
ははは(笑) 明確に知覚出来るかというと難しくって、「誤差」みたいなものなんですけど、でもその誤差を積み重ねていくと、大きな違いになるんです。
もう一つ(写真奥の茶色い塩)は、ネパールの方の「溶岩塩」です。温泉っぽい・硫黄っぽい香りがあって、ゆで卵みたいな味わいがあります。この塩で野菜炒めをつくると、野菜しか使っていないのに卵を使ったようなうま味や味わいがつくれるんです。
いっくん:
(舐めてみて)これはめっちゃ卵ですね!
楠本さん:
さっきのしいたけやこの塩のように、ごちそうになる食材や、面白い食材って世界には沢山あるんですよね。そういったところまで視野を広げることが出来れば、野菜だけでも十分においしい「ごちそう」をつくることができるんじゃないかなと思います。
でも、料理人ではない方がそこまでやるのは大変だと思うので……おいしい野菜料理が食べたい時には、ぜひ「菜道」に来てくれると嬉しいですね!(笑)
「菜道」さんに教えてもらったペアリングレシピ
今回「菜道」さんから特別に、インドの青鬼(IPA)との相性ピッタリの「ヴィーガン麻婆豆腐」のレシピを教えてもらいました!
動物性の素材は使っていない、完全なヴィーガンメニューですが……
おいしさと、ビールとの相性の良さは保障させていただきます。ぜひつくってみてくださいね!
インドの青鬼(IPA)にあう「ヴィーガン麻婆豆腐」
レシピはこちらのページでご覧ください!↓
おわりに
「こんな感じだろうな」と思っていた予想が、良い意味でものすごく裏切られた経験は久しぶりでした。それくらい「菜道」の料理は衝撃的だったな……。皆さまもぜひ一度、食べに行ってみてください。
また、「菜道」の掲げるコンセプト「フードダイバーシティ(食の多様性)」は、私たちのミッションである「ビールに味を!人生に幸せを!」に通ずる所があるように感じました。「菜道」が、全ての人が同じ食卓を囲める世界を目指しているように、私たちも、全ての人が自分好みのビールを当たり前に選択出来る世界を目指しています。改めて多様性対応や、お客様への分かりやすい情報提供等を進めていかなければ、と背筋が伸びる取材になりました。頑張るぞー!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。12月中はまだまだ記事の更新が続きますので、新しい記事をお楽しみに! それではまたー!
(おわり)
取材協力:菜道
住所:東京都目黒区自由が丘2丁目15−10
営業時間:
昼 12:00 ~ 15:00(14:00)
夜 18:00 ~ 21:00(20:00)
水曜定休