ビールのつくり方を分かりやすく解説!工程から発酵や熟成の方法、豆知識まで
大人の飲み物「ビール」。
ビールによって、苦みが強かったり甘味があったり……。同じビールなのにのどごし、味や香りが全然違いますよね。
それは、ビールのつくり方によってうまれるものなのです! そこで今回は大人を虜にする「ビール」の作り方に注目!
ヤッホーブルーイングの醸造責任者「もーりー(森田 正文)」が画像や動画と共に分かりやすくご紹介します。
解説する人:クラフトビールメーカー「ヤッホーブルーイング」 ビール醸造部門責任者
製造部門責任者・ブルワー(醸造士) 森田 正文
茨城大学大学院農学研究科で二条オオムギ(ビール麦)の研究で修士号取得。ヤッホーブルーイングで製造スタッフとして醸造業務、新製品開発、設備投資などを担当後、製造部門の責任者に就任。
ビールの原料はたった4つ!
ビール作りに必要なのは、「麦芽(モルト)」「ホップ」「酵母」「水」の4つが基本です。
ビールの色や香り、味わいを決めるのは原材料。とはいえ、麦芽もホップも酵母も数多くの種類が存在するため、その組み合わせ次第で、できあがるビールの個性は大きく変化します。また原材料を使うタイミングや温度、量を少し変えるだけでも異なる香味に仕上がります。
このように、ビールの原材料はとっても奥が深いのです。
原材料について詳しく知りたい方はこちら
ビールの原料|4つの原材料の組み合わせで味わいが変わる!クラフトビールメーカーが解説
例えば、インドの青鬼(IPA)はグレープフルーツのような華やかな香りと、強烈な苦味が特徴です。これらはアメリカをはじめ世界中から取り寄せた大量のホップを組み合わせました。そこに熱を加えて煮沸することで唯一無二の味が誕生したのです。
インドの青鬼の開発秘話はこちら👇
開発ブルワーが語る、まだ知られていない「インドの青鬼」の話。
図で解説!ビールのつくりかた(工程)
原材料は「麦芽(モルト)」「ホップ」「酵母」「水」の4つでしたね。
ここでは、その原材料を使ってどのようにビールがつくられているのかわかりやすく伝わるよう、製造の流れを図でご紹介します。
ビールの製造工程
①精麦:「麦」を「麦芽(モルト)」にして原材料の1つにするための作業
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②ミリング:「麦芽(モルト)」を粉砕するための作業
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③仕込み:「麦芽(モルト)」からビールのもとになる「麦汁」をつくりだす作業
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④発酵:発酵タンクに酵母を加えてアルコールをうみだす作業
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⑤貯酒・熟成:まだビールがとがっている状態なので、熟成させまとまりのある味に仕上げる作業
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⑥充填:完成したビールを最後に缶/瓶/樽に詰める作業
細かい作業は他にもあるのですが、主な作業はこの5項目です!まずは、これを覚えていただけたらうれしいです。
ビールができるまでの工程を1つずつ詳しく解説
工程のだいたいの流れがわかったところで、次に1つ1つの工程で何が行われているのかご紹介します。
麦芽(モルト)をつくる「製麦」
ビールつくりの始まりは「製麦」です。簡単にいうと「麦」を「麦芽(モルト)」にして原材料の1つにするための作業。
「麦芽(ばくが)」とは、その名の通り「発芽した麦」のこと。「モルト」とも呼ばれます。
……難しいですよね。そこで分かりやすく「製麦」の工程を3つに分けて紹介します!
浸麦(しんばく)
大麦を水の中に浸して発芽を始めます。ほこりなどが洗い流され、雑味などもこの水に溶けだす重要な作業です。
発芽(はつが)
もやしみたいな、この発芽したての大麦は「緑麦芽」と呼びます。硬かった大麦の粒も、発芽でやわらかくなります。
焙燥(ばいそう)
80℃程度の熱風を送り込み、発芽を止めて乾燥させます。このとき、焙燥の温度や時間を調整することで、さまざまなキャラクターの麦芽を生み出すことができます。
焙燥が終わったら、渋味や雑味の原因になる「根っこ」を取って、完成! 焙燥工程でしっかり乾燥させると雑菌が繁殖しなくなるので、長期保管も可能になります。
麦芽の製造工程において、焙燥の温度や時間を調整すると、さまざまなキャラクターの麦芽を生み出すことができます。
ビールづくりに使用する麦芽は、1種類だけではありません。いろんな麦芽を組み合わせることによって、ビールの色や味わい、コクを創り上げていくのです。
麦芽(モルト)の解説記事はこちら
ミリング(麦芽粉砕)
麦芽(モルト)はどうなるのでしょうか?
まず、先ほどつくった麦芽(モルト)を砕く作業をします。これをミリング(麦芽粉砕)と言います。
ビールを作るときに必要なのが、麦芽(モルト)に含まれている「でんぷん」です。ミリングは、でんぷんを抽出しやすくするために行う作業です。
ミリングについてはこちらの記事でチェック
ビールづくりは「ミリング」から
仕込み
ここからが製造過程です。ビールの元となる「麦汁(ばくじゅう)」ができるまでの流れをご紹介します。
糖化(もろみづくり・マッシュ)
大きな仕込みの樽に、先ほど砕いた麦芽(モルト)とお湯を投入。温度を保ちながら攪拌(かくはん)し、麦のおかゆ(※)が完成します。この時、麦芽(モルト)の酵素が働いてモルトのデンプンを「糖」へと変える「糖化」がおこなわれます。
※おかゆのようになった状態を「マッシュ」と呼びます(ドイツ語では「マイシェ」とも言います)
濾過(ろか)
麦のおかゆ「マッシュ」は、穀皮や麦芽の粒などの固形物が含まれているため、左のように濁っています。
マッシュをろ過したものが「麦汁」。とても甘い、麦のジュースのようなものです。 (まるでメープルシロップのような味……)
煮沸
甘い「麦汁」にホップを投入します。
麦汁を煮沸するタイミングで、ホップを投入し、苦味と香りを付けます。煮沸する時間によって苦味と香りの付き方が変わります。そのため、投入のタイミングは分単位でコントロールします。
ビールを発酵させる
ビールの元「麦汁」が完成したら発酵タンクへ移し酵母を加えます。酵母は麦汁に含まれる糖分を食べて、アルコールと二酸化炭素(ビールの泡)を生み出してくれるのです。
この時に、ビールにもっと強いホップの香りをつけたい場合、発酵段階でホップを加えることがあります。これをドライホップと言います。
ヤッホーブルーイングでは、ドライホップ専用の機器を使っておりドライホップしないビールと比べると手間はかかりますが、美味しいビールのために頑張っています。ドライホップの解説記事はこちら
アロママシマシのビールに欠かせない!「ドライホップ」の話
【ドライホップを用いた主なビール】
・よなよなエール
・インドの青鬼
・僕ビール、君ビール。シリーズ
・軽井沢ビール クラフトザウルス シリーズ
豆知識:クラフトビールの種類によって発酵の仕方が違う?
150種類以上に分類されるビアスタイル(ビールの種類)ですが、大きく2つに分類すると「ラガー」と「エール」で分けられます。これは酵母によるもので、その酵母が「ラガー酵母」か「エール酵母」かによって、分けられるのですよ。
日本のビールで一般的な「ラガービール」とよなよなエールなどの「エールビール」はほとんど同じ原料をつかっていますが、発酵方法が異なります。
エールビールのつくりかた(上面発酵)
エール酵母は、香り豊かで味わい深いビールをつくるのが得意。20℃前後で発酵し、酵母は発酵が進むにつれて液体の表面に浮いてきます。発酵期間が3~6日ほど。
ラガービールのつくりかた(下面発酵)
ラガー酵母は、スッキリしたキレのあるビールをつくるのが得意。5℃前後でゆっくりと発酵し、発酵が進むにつれて酵母は底に沈みます。発酵期間は6〜10日ほど。
クラフトビールの種類やビアスタイルについての記事はこちら
クラフトビールの種類・一覧表!初心者におすすめな人気ビアスタイルを解説
ビールを熟成させる(貯酒)
発酵が終わったビールは貯酒室へと移動させます。ビールを2週間~1か月ほどほど熟成させ、まとまりのある味に仕上げるのが「貯酒(ちょしゅ)」の工程です。
ビールを瓶や缶に詰める(充填)
熟成が進んだビールは、酵母や不要な成分などを取り除くために濾過します。ビールづくりの主役だった酵母はここで役目を終え、濾過されたビールは澄んだ美しい色になります。
ヤッホーブルーイングではほとんどのビールを濾過していますが、濾過をせずに(無濾過)出荷することもあります。
無濾過(むろか)ビール
熱処理をしないビールは「生ビール」と呼ばれていますが、あえて濾過をしないビールを「無濾過ビール」と呼びます。
無濾過ビールは、濾過していないため酵母を残したままのビールです。一般的なビールにはない濃厚なコクとフルーティーな香りを楽しめ、濁っている見た目が多いです。
無濾過ビールの中には、出荷後も酵母の発酵が進み味わいが変化するものも。そのため、賞味期限は短めに設定されていることも多いのです。新鮮なうちにしか飲めない特別感がありますね!
ビールのつくり方の動画で解説!
ビールのつくり方を分かりやすく・楽しめる動画解説もあるのでよかったらご覧ください。