「もっと森はおもしろくなる」やまとわが目指す、森と人がつながる暮らし|甲信モダナイズな仲間たち
「山の上ニューイ」のコンセプトは「甲信モダナイズ」。甲信モダナイズとは、「もともと甲信地域(長野県・山梨県)に独自にあった自然やカルチャーに、現代的なセンスを加えて新しく表現する」という考え方のことです。そして、さまざまな形で山の上ニューイに関わってくれた「甲信モダナイズ」を体現する方々に、仲間のひとりである株式会社バリューブックスの内沼晋太郎さんが話を伺っていく連載「甲信モダナイズな仲間たち」がはじまりました。
今回話を伺った「甲信モダナイズな仲間」は、「森と暮らしの新しい関係性をつくる」ことを目指し、家具づくりから住宅リノベーション、エネルギー事業まで、森の入り口から出口までのデザインを手がける長野県伊那市の「やまとわ」の奥田悠史さんです。
話した人:株式会社やまとわ 奥田悠史さん
奥田 悠史(おくだ ゆうじ)
株式会社やまとわ 取締役/森林ディレクター
株式会社やまとわ 長野県伊那市にて「豊かな暮らしの提案を通して、豊かな森を育む」ことを目指し、森づくりから農林業、ものづくり、家づくりなどを一連で実践する。夏は農業、冬は林業をする「農と森事業部」、地域材100%で家具や木製品をデザイン・製作する「木工事業部」、薪ストーブや薪の販売・家づくりなどをする「暮らし事業部」、森林教育や森の企画をする「森事業部」という4つの事業部を通して、森と暮らしが近い未来づくりを進める。
聞いた人:内沼 晋太郎
内沼 晋太郎(うちぬま しんたろう)
株式会社バリューブックス取締役、「本屋B&B」共同経営者、「八戸ブックセンター」ディレクター、「日記屋 月日」店主、ブック・コーディネーターとして、本にかかわる様々な仕事に従事。現在、東京・下北沢と長野・御代田の二拠点生活。
やまとわさんとは、山の上ニューイ発売を記念し、セブン-イレブンで3缶セットを購入された方へのノベルティとして「経木」を共同で製作しています。
※各店舗先着30名へのプレゼント。予定数量に達し次第ノベルティは終了となります。
森を豊かにする「経木」とは? 地域に根ざしたこれからの林業を営む、やまとわさんが考える甲信モダナイズについて、内沼さんが話を伺いました。
価値がつかない木々の可能性を見出していく
内沼:
やまとわさんのホームページなどを拝見していると、「豊かな森づくり」をめざして、さまざまな視点からアプローチされているなと感じました。
奥田さん:
やまとわは事業を通して、森がかかえている課題の解決をめざしています。日本はこれだけ森に囲まれてるのに、家具づくり1つとっても使われている国産材の比率って低いんですよ。なぜそうなのかというと、“プロダクト先行の家具づくり”をしているからです。
内沼:
つまりそれは、理想的な家具のデザインを先に決めた上で「見た目が映えたり、その家具の形に加工しやすい木材を選んでいくような家具づくり」といったところでしょうか。
奥田さん:
まさにそうです。僕たちはそのものづくりだと、地域の資源は使えないと考えていて。そのため「この森には、この木材が生えているから、こういったものをつくろう」といったように、「地域の森の特性をいかしたものづくりに、クリエイティビティの力を使っていくこと」を重要視しています。
やまとわの拠点がある伊那にはアカマツがとても多く生えているので、それらを活用したプロダクトを考えていこうと、家具や経木などさまざまな木工製品をつくっています。
内沼:
こちらの樹木構成の図をみると、伊那にはアカマツが多く生えていますが、カラマツも多く生えていて、むしろ比率としては高いですよね。その中でアカマツの活用にフォーカスされているのはなぜですか?
奥田さん:
アカマツは曲がりながら育っていく特徴があり加工がしづらい木材なんです。使いにくいし、市場での価値も低い。だからこそ僕たちがやる意味があると考えていて。伊那の森の主要な資源であるアカマツに、「価値と利用を生み出すものづくり」をしています。
伊那の森を支える「小さな木こり」や「一人親方」たちの存在
内沼:
いま伺ったような、やまとわさんのユニークな活動は、伊那だからこそできたのでしょうか。他の地域にも広げられる可能性があるものなのでしょうか?
奥田さん:
森がある限り、その地域ごとにやれることはたくさんあります。ただ、「今すぐに自分たちの地域の木を、自分たちの地域で活用すること」ができるところは、日本でも多くないかもしれません。この地域には、比較的小さな規模でやっている木こりがたくさんいるんです。1本からでも「取りにきてくれるならいいよ」と言ってくれる方だったり、僕たちの活動に共感してくれる方も多くいらっしゃって。伊那という地理的環境も要因にはありますが、それ以上に“そういう人”がいてくださったというのが大きいですかね。
内沼:
いわば、伊那の森づくりを考える木こりの方が多くいらっしゃったと。「木こり」と聞くとむしろそういう方ばかりといいますか、みなさん森大好き!なイメージがあるのですが、必ずしもそうではないのですね。
奥田さん:
「森が好きで、森のためにやっています」という方はもちろんいます。一方で、生業として木を商材的に扱っている方がいるというのも事実です。
伊那では「森林塾」という林業の一連の流れを学べる場づくりを1994年から行なっていて、それをきっかけに人が集まってくるんです。そして、そのまま定住して、木こりをはじめる、といった方々もいます。そうした「一人親方」的にやっている木こりが多くいるという全国的にも珍しい地域なんです。
内沼:
森好き人材が全国から集まってくるんですね。
奥田さん:
また、信州大学の農学部のキャンパスがあるので、そう言った意味でもこの地域は森好きが集まりやすい土壌があるかもしれません。小さい木こりが集まり、大きな木こりのチームを作って、みんなで仕事を融通し合っているようなイメージです。
伊那の木こりの人たちと話していると「森のためになるようなことをしたい」、「山主さんに利益をしっかり返したい」といった会話が繰り広げられています。僕らは当たり前だと思っていたけれど、もしかしたらそれは意外とめずらしいことかもしれないと思っています。
内沼:
「森のことを考えた伐採」をする木こりの方々が集まっている環境に、「森のことを考えたものづくり」をするやまとわさんが加わることで、地域の木を地域で活用することが可能になっていったのですね。
木という“いきもの”を扱う、やまとわの職人たち
内沼:
今回ヤッホーブルーイングと共同で製作した、オリジナルの「経木」のサンプルが手元にあるのですが、簡単につくれるものでもなさそうな……
奥田さん:
そうなんです。絶妙な加減で均一な厚さに削ぐことがとても難しくて、はじめは苦労しました。ヤッホーブルーイングのスタッフの方には現場に来ていただき、経木づくりを体験していただいたのでわかるかと思いますが、職人仕事なんですよね。
内沼:
実際の現場はどうでしたか?
もじょう(よなよなスタッフ):
木を切り倒すところから参加させていただいたのですが、まさに職人さんの手が光る現場でした。経木をつくる最終工程で、かんな職人の方からお伺いした話が印象的で。その方自身の手仕事をいかに経木の機械で再現するか、工夫したポイントや機械を知るために一度バラバラにして元に戻されたというお話も伺って驚きました。
※本記事の最後で、もじょうが経木づくりをお手伝いした際の記事もご紹介しています
奥田さん:
完全にはオートメーションすることはできないんだろうな、と考えています。刃物の研ぎが均一でなければそれだけで厚みに違いが出てしまう。頭では理解しつつも、実際に刃物の部分をみても僕には全然わからない…(笑)
内沼:
僕が思うに、ビール造りと通ずる部分もあるのかなと思いました。職人さんしかわからない感覚って結構あるのかと思っていて。いくら機械化や数値化しても最後は人にしかわからない領域がある。
奥田:
僕らは木を、つまりいきものを扱っているんですよね。木目が違うのはもちろん、木によって反り方も全く変わってきて。悩ましいなと思いながらも、日々それぞれの木と向き合い続けています。
内沼:
今回ヤッホーブルーイングとのコラボレーション実施にあたって「こんな風にビールと経木を楽しんでほしい」というものはありますか。
奥田さん:
例えばお皿代わりに経木を使っていただくと、ビールを楽しむ時間を少しでもいいものにできるのかなと思います。今回はセブン-イレブンさん限定発売とのことなので、セブン-イレブンさんのおつまみをのせていただくのもいいかと!
内沼:
いま経木を使っているシーンがとても鮮明に浮かびました。
奥田さん:
あとは「この経木って信州の伊那の木からできたんだ」、「10月くらいまでは森に生えていた木なのか」といった、この経木ができた背景に思いを馳せていただけたらいいなと個人的には思います。そして、それによって食体験、ビール体験がいつもと違うよねと感じてくださったら本当に嬉しいことですね。
暮らしに森を。紙一枚にのせる、社会へのメッセージ
奥田さん:
経木って群馬の桐生が昔ながらの産地なのですが、いま現在、桐生で経木をつくっている企業はたった2社しかないんですよ。最盛期では全国に200社以上あったと思われる経木産業がなぜ衰退していったのかは、スーパーマーケットの個包装の影響が大きいと考えていて。
僕たちの消費体験が「いかに手軽に、簡単に、人と接することなく、商品が買えるか」という価値観に変わってきた中で、経木はそっと消えていきました。コミュニケーションの中で買い物をする商店街に代わってスーパーマーケットが増えるとともに、経木はどんどんなくなっていったのだと思います。
内沼:
なるほど……。そのような状況で、どう経木を広めていこうと考えているのでしょうか。
奥田さん:
従来の経木の使われ方と違う、僕たちだからこそ伝えていけるメッセージとしては、「森と暮らす心地よさ」だと考えています。実際のユーザーさんからもありがたいことに、そのような感想をいただくことが多くて。僕たちは利便性を売っているのではなく、森の手触りであったり、木だからいいよねという感覚を日常の中で提供していきたいと思っています。経木という、紙一枚でそれらの思いを伝えていけるのはとてもいいなと。
内沼:
脱プラスティックという社会の方向性が変わってきた中で、より受け入れられやすくなってきているのかとも思います。
奥田さん:
実際に、おにぎりやお弁当の包装に使っていただいたりもしています。完璧に全てのプラスティックを代替することは無理だとしても、一部の脱プラに経木が使えないかと新しい模索はし続けています。
もう1つの新しい取り組みとして、つくっているのが「経木のノート」です。紙は作る過程では木を砕いてパルプにして紙に成形するという工程だと思いますが、実は木のままでも書けちゃうんです。
内沼:
本の仕事にたずさわる身として、ノートのとりくみはとても興味があります!
たしかに木を木のまま紙として使えるなら、わざわざ紙にする必要もないですし、エネルギー使用量も少なそうですね。経木ノートに印刷することはできるのですか?
奥田さん:
エネルギー効率は非常に高いと思います。印刷面に関しては相談したくて(笑)。木屑が出るので、高精細なプリンターだと逆に印刷するのが難しいという問題があるんですね。
内沼:
ちょうどこのインタビューのシリーズで
藤原印刷という松本の印刷会社さんにも取材
をするので、併せて聞いてきます。
奥田さん:
藤原印刷さんならなんとかしてくれそうですね。ぜひよろしくお願いします!
「山の上ニューイ」ブランドサイト
https://yohobrewing.com/newee/
よなよなスタッフ「もじょう」が経木づくりをお手伝いした際の記事はこちら
「山の上ニューイ」3缶セットについてくる「経木」ができるまで。【よなよなスタッフが伐採から封入までお手伝い!】
山の上ニューイのこだわりや、「甲信モダナイズ」について詳しくはこちら
「山の上ニューイ」ができるまで|長野・山梨を新しく表現する「甲信モダナイズ」とは?
株式会社やまとわ: https://yamatowa.co.jp
インタビュアー・編集:内沼晋太郎
執筆:神谷周作