眠れるししし開発裏話 ~焚火を囲んで眠れるしししを味わいながら~
ヤッホーブルーイングの個性的な製品群の中でも、ひときわ個性が際立つビールが「眠れるししし」。
国内ではあまり流通していないバーレイワインというスタイルは、その名前と見た目から「ワインなの?」と勘違いする人が多い一風変わったビール。
そんなユニークなビールにはファンも多く、当然ヤッホーブルーイングの社内にも。
バーレイワインの新製品を生み出すべく集まったバーレイワイン好きたちが、製品開発にかけた期間は約2年。その中で、何に悩み、どんな想いを込めたのか。眠れるしししを片手に、当時を振り返りながら語ってもらいました。
一発勝負。だから難しい。だから緊張する。
焚火:パチッ、パチッ、パッチ(薪のはぜる音)
キノケン:それにしても眠れるしししは本当においしいよね。飲みやすい。
せるべぇ:おー、ありがとう。飲みやすさはこだわった点だから、そう言ってもらえるのは素直にうれしい。
すーじょん:5月の超宴2024(※)でも大好評でしたよね。
※超宴:ヤッホーブルーイングが主催するファン向けのビールイベント
べーち:一口飲んで「これ危険なやつだ(笑)」ってニヤッとしているお客さんとかいたね。するするいけちゃうけど、アルコール度数は高いから確かに危ない。
三の宮:グラスに注いでこんな風にゆっくり話しながら飲むのが向いてるよね。
べーち:バーレイワインって貯酒期間が最低でも半年かかるからビールづくりからしてゆっくりだよね。つくるのってやっぱり大変?
せるべぇ:そうだね。レシピ開発からはじまって、ビールの仕込み、発酵とそれぞれに苦労はあるかな。
すーじょん:レシピづくりから大変なんですね。
せるべぇ:そうそう。いつもレシピを考えるときって、世の中で売っているビールをテイスティングして、どんな香味の方向性を目指すかイメージを膨らませるんだけど、バーレイワインの場合は手に入るものが少ない…。
キノケン:つくっているブルワリーが少ないもんね。
三の宮:確かに私もバーレイワインを見つけたら「買わないと!」って思う。
せるべぇ:今回は何とか6種類揃えてテイスティングしたかな。あとは過去のレシピや発酵の記録、テイスティングシートを読んだり、バーレイワインに関する洋書があるからそれを読んだり。
すーじょん:ずいぶんマニアックな本ですね。
せるべぇ:ねっ(笑)。バーレイワインって今回もそうだけど、年に1回しかつくらないから、その1回で狙い通りの味を実現しないといけない難しさがあるんだよね。だからレシピを考えるときから神経を使う。バーレイワインをつくる時は、缶に充填し終えるまでずっとドキドキしてる。
べーち:1年くらいずっとドキドキしているのか(笑)。ほんとお疲れさま。
朝4時から夜9時まで。一日がかりの仕込み作業。
キノケン:仕込みの時は何が大変?
せるべぇ:麦芽をふんだんに使うから、ミリング(※)の時間も他の製品より時間が掛かる。あとは、煮沸の時間も長い。濃い麦汁をつくるために、煮詰めていくから、通常の2.5倍くらいの煮沸時間が必要。バーレイワインを仕込むときは、朝4時から夜9時くらいまでの作業になるから、一日がかりになるね。
※ミリング:麦芽を砕く作業のこと
すーじょん:大変。そして失敗もできない…。
せるべぇ:だからバーレイワインを仕込む日は、緊張感が違う。隙間時間を有効活用するみたいなのは一旦忘れて、バーレイワインに全集中する。
三の宮:そんな苦労が…。発酵中も何かやることがあるの?
せるべぇ:やることはそんなにないけれど、アルコール度数が高いビールは、酵母が途中で発酵を停止しちゃうリスクがあるのね。だから、発酵が止まった時のために追加で酵母を入れる準備をしておいたり、発酵が緩慢になってきた時のためにタンクにお湯をかけて温める準備をしておいたり。
すーじょん:手間のかかる子なんですね(笑)。
せるべぇ:面白いのが、酵母って糖を食べてアルコールと二酸化炭素を出すんだけど、その自分が出したアルコール度数が高いと弱っていっちゃうんだよね。
三の宮:自分で出したアルコールなのに(笑)。
せるべぇ:そうなんだよ。だから発酵中も気が抜けない。
キノケン:それから貯酒タンクで半年以上も寝かせるんだもんね。そこまで手間をかけて、このビールが生まれてるんだなぁ。
自宅でビールを熟成するという楽しさを。
せるべぇ:マーケティングのメンバーも今回大変だったんじゃない?
キノケン:大変だったという記憶はあるけど、正直あんまり覚えてない(笑)。思い出すために最初にメンバーで打ち合わせをした日を見たら、2022年の2月だった。
べーち:かなり前だね。
三の宮:私は途中から参加したけど、私が入るまでは男性だけだったよね。
べーち:プロジェクト名も「男熟」だからね。男たちで熟成したビールをつくるから、「男熟」。男子校みたいなノリで楽しく考えてた。
キノケン:アイスブレイクで好きなアイドルの話をしたりね。べーちの好きなアイドルは確か…
べーち:当時のノリを持ち込まないでくれますか?
一同:(笑)
せるべぇ:覚えている中で苦労したことある?
キノケン:製品コンセプトを考えるところとネーミング、あとはパッケージデザインを考えるところも大変だったな。
すーじょん:製品コンセプトは「ホームエイジング」ですよね?
べーち:そう。「答えなき熟成の世界とまろやかで重厚な香味に陶酔するホームエイジングクラフトビール」がコンセプト。ここにたどり着くまでにめちゃくちゃ議論した。
キノケン:ヤッホーがどんなバーレイワインを目指すのかを議論したり、バーレイワイン好きの人にインタビューしたりね。
べーち:バーレイワイン好きの人ってビアギークと言われるようなマニアっぽい人もいれば、ウイスキーとかワインとか色んなお酒に精通している中でバーレイワインのようなユニークなビールが好きな人もいたりしてね。
キノケン:今回は後者のようなこだわりの強い大人を特に意識して製品開発したよね。
べーち:そういう人たちに家でビールを熟成する楽しみを届けられたらいいなって。当時は大人たちに新しい趣味をつくろうと話していた。
三の宮:私もこのコンセプトがすごく好き。実際にみんなで缶で熟成させたビールを飲んでみたときに、こんなに変わるんだ!って驚いた。まだまだビールの知らない一面があるんだなって気づかされたな。
キノケン:味が変化していくのを楽しむ。そういう時間に浸って陶酔感を味わえるところが、このビールのいちばん届けたい価値だってみんなで意見がまとまったんだよね。
悩みに悩んだけど、これでよかった。
すーじょん:私はネーミングも好きです。これも大変そうでしたよね。
キノケン:1,000案くらい考えた中の1つ。
べーち:みんなで持ち寄ってね。
三の宮:5回戦くらいやったかな。もっとかも(笑)。
キノケン:僕の中では、「深沼エイジの好奇心」「深熟三丁目」「十五兆年漂流記」が好きだった。
せるべぇ:どれもおもしろい(笑)。
べーち:でもネーミングをパッケージデザインにしたときに、「眠れるししし」がいいなって思った。眠れるしししともう一案残った案が「熟星トロリン」。今考えるとちょっと可愛すぎたかもしれない。
三の宮:パッケージデザインを選ぶのも苦労したよね。
キノケン:デザインを4案くらいに絞ったけどどれもよかった。マニアックなビールだから癖のあるデザインに振るか、それともバーレイワインらしい上質さを感じるデザインにするかで意見が分かれた。
べーち:悩みに悩んでお客さんにも意見を聞いてね。
三の宮:最後、絞った2案のデザインで決戦投票をしたよね。みんなでいっせーのーせで投票して、満場一致で決まったのが今のデザイン。
すーじょん:ヤッホーのデザインっぽいけど、ヤッホー製品にないデザインですよね。2缶並べて絵になるところとか、背中がワイングラスのところとか、そういう細かいこだわりも好き。不思議な魅力のあるキャラクターだなって思ってます。
おもしろさを感じてほしいし、満たされてもほしい。
せるべぇ:まだまだ語れると思うけど、薪がなくなってしまいました。そろそろお開きにしようと思うけど、みんなは眠れるしししを通してお客さんにどんな気持ちになってほしい?
キノケン:クラフトビールの奥深さや面白さを身近に感じてほしい。バーレイワインって一般的なビールとはかけ離れたビアスタイルだけど、とても美味しいし、今回はホームエイジングを楽しんでもらえるようにしたことで、バーレイワインと一緒に過ごせる時間を長く提供できたと思う。そんな中でクラフトビールとお客さんの距離が近づいてくれたらうれしいな。
べーち:お客さんのSNSでの投稿を見ていると、特別な日に飲んだと書いてくれていてそれを見るとすごくうれしい。でも、そういう日だけじゃなくて、何でもない日を特別にする目的でも飲んでもらいたい。日常の中で陶酔の世界に入れるビールだと思うから。
三の宮:べーちの聞いてそうだなって思っちゃった。私はバーレイワインをすごく好きで美味しい飲み物だと思っているから、同じように思ってくれる人が一人でも多く増えてほしいかな。
すーじょん:私はクラフトビールってまだ色んな楽しみ方の幅があるんだなと驚いてほしい。ひとつのビールなのに、こんなに味の変化が楽しめる。こんな楽しみ方がビールでできるんだって気づいてほしい。
べーち:素敵だなぁ。じゃあラスト、せるべぇどうぞ。
せるべぇ:長くなるよ?
べーち:手短にお願いします。
一同:(笑)
せるべぇ:一個はすーじょんと同じ。ビールっておもしろいなと思ってほしい。ビールってピルスナーがあったり、サワーみたいな酸っぱいのもあれば、眠れるしししみたいな味わい深いビールもある。この振れ幅の大きさをおもしろがってほしい。あとは、飲んだ時の心が満たされる感覚を味わってほしい。お客さんは自分へのご褒美だったり、何かしら期待してこのビールを開栓してくれるんだと思う。その期待する気持ちに寄り添いたいし、満たしてあげたいし、その期待を超えていきたい。最高だなと思える映画を見た夜かもしれないし、お子さんが独り立ちした寂しさを噛みしめる夜かもしれない。どんな夜でも、その気持ちに寄り添って心を満たせるビールでありたいな。
一同:パチ・パチ・パチ(拍手)
眠れるしししの開発メンバーによる焚火を囲んで語る会はこれにてお開き。いつの日かみなさんとお会いして、眠れるしししを飲みながらゆったりお話しできる日を、開発メンバー一同楽しみにしています。それではみなさんも、眠れるしししと素敵な夜を。
〈END〉