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開発ブルワーが語る、まだ知られていない「インドの青鬼」の話。

開発ブルワーが語る、まだ知られていない「インドの青鬼」の話。

「インドの青鬼」が発売されたのは、2008年5月。もうそろそろ15年目に突入しようとしています。実は、結構長いこと販売している製品なのです!

最近では、「あの鬼のビールか」「苦いビールか」と覚えてくださる方も増えてきて嬉しい限りなのですが……発売からしばらく経つのに、インドの青鬼のネーミングや誕生経緯、製品づくりへのこだわりを、みなさんにお伝えしていなかったことに気づきました。

ということで今回、開発ブルワー(醸造士)の「もーりー」が、こちらの記事でインドの青鬼について徹底解説いたします。

話す人:インドの青鬼をつくった「もーりー」

インドの青鬼をつくった「もーりー」

この記事でインドの青鬼について語るのは、ブルワーの「もーりー」。
インドの青鬼のほか、よなよなエール、水曜日のネコなどのレシピ開発に携わったよなよなの里のブルワーです。

なぜ「インド」の「青鬼」?

こんばんは、インドの青鬼をつくったブルワーのもーりーです。もうご存じの方も多いかもしれませんが、まずは、一番質問をいただく事の多い名前の由来からご紹介します。

インドの青鬼のビアスタイルは、18世紀末のイギリスで誕生した「インディア・ペールエール(IPA)」。当時イギリスでは、植民地だった「とある国」に滞在するイギリス人のために、本国でつくったビールを船で運んでいました。長く過酷な輸送だったため、それに耐えられるよう、アルコール度数を高め、劣化防止効果のあるホップを大量に入れたことから生まれたビアスタイルだと言われています。

クラフトビールとフレッシュホップ

そう、その「とある国」というのが……インド!  インドの青鬼の「インド」は、IPAの歴史に由来しているんです。
また、大量にホップを投入することで生まれる「驚愕の苦み」や「ホップの青々しさ」を「青鬼」と表現しました。

期間限定品として販売していた「18世紀のインディアペールエール」

ちなみに、インドの青鬼発売以前、期間限定品として「18世紀のインディアペールエール」という名前のIPAをつくっていたことがありました。インドの青鬼のパッケージデザインは、18世紀末の大航海時代の空や海を表現してつくられたものなので、この製品と通ずるところもありますね!   

苦いのはなぜ?   

ホップを投入する様子

インドの青鬼といえば「苦い」というイメージをお持ちの方が多いかもしれません。そもそも、ビールがなぜ苦いのかご存じですか?

先ほど「大量にホップを投入することで苦みが生まれる」とお話しましたが、ただホップを入れただけではビールは苦くなりません。

ビールの苦みの主成分は、「イソα酸」。ホップの中には「α酸」という化合物が存在していて、α酸自体は苦くありませんが、熱を加えて煮沸することで異性化(※)してイソα酸になります。(※異性化……ある分子が原子の組成は全くそのままに、原子の配列が変化して別の分子に変化すること)
つまり、ホップをたくさん投入して、熱をかけることで苦〜いビールができあがるというわけです。

煮沸中にホップを投入した様子

逆に言うと、いくらホップをいれても、熱を加えなければ苦くはならないんですよ。実際、たくさんホップを入れていても苦くないビールがある。それが、「ドライホップ(発酵中のビールにホップを添加し、香りづけをする手法)」をしているビールです。(ドライホップについて詳しく知りたい方は こちら 。)

インドの青鬼の真髄は苦みにあらず!?

ここまでビールの苦みのメカニズムを語っておいて恐縮ですが、実は、インドの青鬼は「苦み」だけにこだわっているビールではないんです。

そもそも、インドの青鬼は「とにかく苦くしよう」と考えてつくったビールではありません。ただ苦くしたいだけであれば、先ほどお話したように、ホップの量・熱をかける時間を計算すれば良いだけ。誰でもつくれちゃいます。

インドの青鬼はアルコール度数が高く甘味もあるので、味わいのバランスをとるために苦みを付与しています。だから、苦ければ苦いほどいいというわけではないんです。それよりも、きれいな苦みなのか、持続性のある苦みなのか、もしくはキレのいい苦みなのか……そういった苦みの「質」を重視しています。

ドライホップの様子
ドライホップの様子

それから、苦みをつくるためのホップはもちろんですが、それ以上にフレーバー・アロマ(香り)に効くホップをすごく大事に考えています。「ワールプール(澱を集めて除去する工程)」にあまり熱をかけずに投入するホップや、先ほどお話した「ドライホップ」の使い方にすごくこだわっているのがインドの青鬼です。

理想の味を追求。インドの青鬼ができるまで

ブルワーのもーりーがアメリカを視察した際の様子

現在のインドの青鬼の味わいにたどり着くまで、試行錯誤の連続でした。

大きな転機は、アメリカ視察。インドの青鬼のレシピを考えていた頃、ビールの醸造技術を向上させるため、クラフトビールの本場アメリカに視察に行って、ドライホップの技術とか、ビールに香りづけする技術を学んだんです。「ドライホップはホールホップじゃなくてペレットホップでやらないといけないらしいぞ」とか「複数のホップを混ぜたほうが香りが強くなるらしいぞ」とか。

摘み取って乾燥させた「ホールホップ」
摘み取って乾燥させた「ホールホップ」

乾燥させてからペレット状に固めた「ペレットホップ」
乾燥させてからペレット状に固めた「ペレットホップ」



帰国後、インドの青鬼の味わいの追求がはじまりました。いろいろ変えたり、組み合わせたり……。自分たちがおいしいと思うアメリカンIPAをつくりあげるまで、超えるハードルはたくさんありました。

一番苦労したのは、香りを出すこと。ホップをいくら入れても、全然香りが出ない! それもそのはずで、アメリカに行く前に私たちが「常識」としていたビールのホップ量は、今の1/6(六分の一)ぐらいだったんです! だから、新しい味わいを開発するにあたり、当時からするとちょっと信じられないぐらいの量のホップを入れていったんですよ。

テイスティングするブルワーのもーりー

アメリカで色々ビールに関して学んで、知識として「もっとたくさんホップを入れるべきらしいよ」というのはわかったけれど、実際入れる量までは誰も教えてくれなかったから、入れても入れても香りが出ないといいうことで、ホップ投入量がエスカレートしていったのを覚えています(笑)。最終的に6倍の量でやっと「これだ」となったんです。

ホップ

それから、ホップの最適な組み合わせを見つけるのにも苦労しました。今でこそ、複数の品種のホップを混ぜるのが私たちのビールづくりでは基本的な考え方になっていますが、当時はホールホップを1品種だけ、今の1/6ぐらいの量をちょろっと入れるのが常識だったわけですから……。とにかくたくさんホップを取り寄せて、何度も何度もトライして。もう回数は覚えていないですね、何十回と試しました。

今は、「ホップティー」というやり方でホップの組み合わせを決めているんですよ。発酵中のビールにホップを溶かして、ホップの品種別の発酵液をたくさんつくるんです。発酵液をスポイトでとって、それぞれ異なる比率で混ぜ合わせて味見していくことで、最適なホップの組み合わせを探っています。

ホップティーの様子
異なる比率で混ぜ合わせ、テイスティングしていきます。


この方法であれば毎回イチからビールをつくらなくてよいので、時間もビールのロスも少ない。でも当時はそんな方法を知らなかったので、インスピレーションや経験で試しながら一か月かけて一つのビールをつくって、評価してまた試して……なんてことをしていました。だから、インドの青鬼の開発は、一年とか一年半とか……いや、もうちょっとかも……それぐらい長い期間奮闘していましたね。

しかも当時は、最近新しく御代田(みよた)にできた醸造所にあるような500ℓぐらいの精緻な研究開発設備がなかったので、20ℓの給食用みたいな鍋釜で試作して、試作が良くても本仕込みの窯でつくって味がブレブレになるか、最初から10kℓの本仕込みの窯でトライして大外れするしかなくて、新製品をつくるときはかなりリスクが大きい状態でしたよね。

佐久醸造所の設備
佐久醸造所の設備

御代田醸造所の研究開発設備
御代田醸造所の研究開発設備

手探りの状況のなか、長いあいだ試行錯誤を重ねるうち、ようやく「これだ!」というアメリカンIPAができあがりました。ホップの香りがドバーっと押し寄せてきて、きれいなホップの戻り香が最後まで楽しめるような味感で……それが、今のインドの青鬼なんです。

「自分たちがおいしいと思うアメリカンIPA」を追求し続けたい

開発者のブルワー「もーりー」

インドの青鬼は、IPAのなかでも「アメリカンIPA」というビアスタイルに分類されます。アメリカンIPAの特徴は、グレープフルーツやトロピカルフルーツ、松ヤニなどの樹脂の香り、ヒノキ、玉ねぎやニンニクといわれるような強烈なホップの香り。そんな特徴をきちんと感じられるビールであるために、個性がちゃんとありながらも、苦みや香りがバランスを逸してしまうことのない味づくりを大事にしています。
7%と比較的アルコール度数が高いビアスタイルですが、飲み疲れすることなく、もう一杯おかわりしたくなるようなIPAでありたいと思っています。

ペレットホップ

今後は、何か新しい製法を生み出せないか模索しているところです。インドの青鬼はドライホップの量が多いので、その分ビールのロスが多い。ペレットホップがビールを吸ってしまうんですね。廃棄するペレットには60%ぐらいビールが含まれているんです。つまり、ペレットと一緒にたくさんのビールを捨てている。しかも、廃棄するペレットホップのにおいを嗅ぐと、すごくいい香りなんです。それって、せっかくのホップの香りがビールに移りきっていないということじゃないですか。だから、そういったことを解決できるような新しい技術を用いてつくっていきたいと思っています。

「山の上ニューイ」エッセンシャルホッピングの様子

ちなみに、廃棄のロスを削減するために新製法に取り組んだビールがあります。長野山梨エリア限定で販売中の新製品「山の上ニューイ」は、流通缶ビールでは日本で初めてエッセンシャルホッピング(水蒸気蒸留)製法を取り入れました。(詳しくは こちら 。)


インドの青鬼は、新しい味を開発したあの時のように、「自分たちがおいしいと思うアメリカンIPAを追求する」ことを忘れないビールでありたい。これからのインドの青鬼にも、期待していてください!

インドの青鬼が買えるお店

インドの青鬼

さいごに、インドの青鬼をお買い求めいただけるお店のご紹介です。

この記事に出てくる商品
インドの青鬼
インドの青鬼 詳細はこちら
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