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レコードとクラフトビール。店主の「好き」が詰まった、三軒茶屋「Small World」ができるまで

レコードとクラフトビール。店主の「好き」が詰まった、三軒茶屋「Small World」ができるまで

私たちとしては10年ぶりとなる、全国向けのレギュラー製品「裏通りのドンダバダ」。

ヤッホーブルーイングのクラフトビール「裏通りのドンダバダ」

「自分の好きに夢中で生きる」をコンセプトに、クラフトビールの世界に魅せられた若手ブルワーが開発したクラフトビールです。

「自分の好きに夢中で生きる」。そんな言葉がぴったりな「クラフトビールに携わる人」を紹介する特集企画を、今日から3日連続で公開します。第一弾は東京・三軒茶屋にある「クラフトビールが飲めるレコードショップ」、「Small World」に伺いました。

レコードとクラフトビールの店、Small World

三軒茶屋・下北沢にあるレコードとクラフトビールの店「Small World」の入り口

三軒茶屋と下北沢のちょうど中間あたり。淡島通り沿いにあるのが「Small World」。その名の通りコンパクトなお店で、席はカウンターに5席ほど。店主の田中さんがセレクトしたレコードを聞きながら、クラフトビールが楽しめるのがSmall Worldの魅力です。

三軒茶屋「Small World」店内・レコード売り場

三軒茶屋「Small World」のビールサーバーで、クラフトビールを注ぐ様子

レコードは田中さんが愛してやまないIndie/AlternativeやExperimental等のジャンルをチョイス。独自に買い付けている珍しいものも多く、遠方から足を運ぶファンもいるのだとか。クラフトビールは常時5種類を楽しむことが出来ます。

平日には乾きものなどのちょっとしたおつまみ、週末には田中さんお手製のヴィーガンメニューを味わえます(2022年3月現在)。定番は、ポテトサラダやビリヤニなど。

レコードプレーヤーでレコードを流す取材当日はシンガーソングライター・柴田聡子さんのアルバムが流れていました。

今では有名雑誌等でも紹介されることのある「Small World」ですが、田中さんは「運と縁だけでここまでこれた」と笑います。「Small World」が出来るまでや、現在に至るまでにどんなことがあったのか。お店やビールのこだわりについて、田中さんに伺いました。

話を聞いた人:田中智紀さん

三軒茶屋・下北沢「Small World」店主 田中智紀さん

田中智紀(たなか・とものり)さん:山口県出身。2016年、三軒茶屋に「Small World」を開店。好きなものは音楽、軽くてたくさん飲めるタイプのビール、サッカー、そして愛犬。

ロンドンでの充電期間が、開店のきっかけに

ーー「Small World」をオープンするまでのことを教えてもらえますか?

田中さん:小学生の頃に、兄の影響でパンクやニューウェーブと呼ばれていた音楽に出会ったんです。そこからギターにのめりこんで……。それから東京に出てきて、いろんな仕事をしながら音楽活動を続けていたんですけど、だんだんとしんどくなってしまって。このままだと、これから先とてもじゃないけど生きていけないかも、って思ったんです。

三軒茶屋・下北沢「Small World」外観

田中さん:そのくらいの頃に、いろいろなことが全て嫌になってしまって、仕事を全部辞めてロンドンに行ったんです。長期滞在がしたかったので、本当は労働ビザを取りたかったんですが難しく、学生ビザを取って。不安も多少はありましたけど、その時は『この生活をこのまま続けていくこと』の方がもっと不安でした。

ーーそれでも、いきなりの海外生活は大変そうですよね。なぜロンドンだったんですか?

田中さん:それまでにも毎年、年に1~2回、3週間くらいの休みをとって好きなバンドのイギリスツアーを追っかけたりしてたんです。そんなことをもう15回以上やってたので、向こうに友達もたくさんいて。ロンドンはもちろん、地方都市も含めイギリスっていう国が好きだったんですよね。

三軒茶屋・下北沢「Small World」店主 田中智紀さん

田中さん:滞在中は100本くらいのライブを観ました。終演後には現地のミュージシャンや、ツアーでやってきたミュージシャンとの交流をすることができたりして。「レコードを聞きながらビールが飲める店をやりたいな」と思ったのも、そうやって生まれた縁の影響が大きかったんです。

ーー100本はすごいですね!

田中さん:同じアーティストのライブを何回も見に行くから、スタッフの人にも顔を覚えてもらえるんですよ。こっちから話しかけたりしなくても、『また来てくれたね』みたいな感じで。

試しに、日本でこういう店をやってみようと思うんだけど……って話をすると『こういう卸があるよ』とか、色々教えてくれるんです。ぼくはこれまでレコード屋で働いたこともなかったし、そういった知識が本当になかったから、めっちゃ助かりました。そういう出会いがきっかけで仕入れたレコードも多いです。

三軒茶屋・下北沢「Small World」で売られているレコード

ーークラフトビールは当時から好きだったんですか?

田中さん:はい、好きでした。現地で飲むBrewDog(※)とか、最初に飲んだ時はそのおいしさに驚きました!

向こうのビアパブでは本当にたくさんのビールを飲んだのですが、その時出会ったおいしいビールは、いつか自分でお店をやるならこういうものを出したいと思って、必ずメモしてましたね。

……それから数年経っても、まだ日本には入ってきていないものばかりなんで、そのメモ、全く役に立ってないんですけど(笑)いつか店で出せたらなあとは思っています。

※BrewDog:イギリス発、世界的に人気の高いクラフトビールメーカー。代表銘柄は「PUNK IPA」

三軒茶屋・下北沢「Small World」のビールラインナップ
取材当日(2022/3/10)のラインナップ。田中さんが選んだ国産クラフト4種類が繋がっていました(※まん延防止措置に伴い、取り扱いビールを1種減らしています。通常は5種類)

三軒茶屋・下北沢「Small World」店主 田中智紀さん
「最近のお気に入りは、富山・KOBOブルワリーの3Aラガーで……」「Small World」では、音楽のことはもちろん、ビールのことも色々教えてくれます。

「実力ゼロ」でも、運と縁で乗り切れた

ーーイギリスから帰ってきて、「Small World」をオープンするんですね。

田中さん:帰国して、2016年に「Small World」をオープンしたんですけど、オープンしてから最初の6か月は特に厳しかったですね……。なんの経験もなかったですから。家の中にある物をどんどん売りに出して、しのいでました。楽器や革ジャンが部屋から消えていきましたね。

ーー物を売って……! 大変でしたね。そこからどう軌道に乗っていったんでしょう?

田中さん:軌道に乗れたのは「運と縁」のおかげでした。犬の散歩中に知り合った人が偶然デザイナーさんで、ダメもとでお願いしてみたらショップのロゴ制作を快く引き受けてくれたり、近くのビルのオーナーさんが、自分の会社のスタッフさんを沢山連れてきてくれたり。そんなことをしているうちに徐々に口コミが広がって、なんとかやっていけるようになりました。

ちなみに店内にあるテレビも、常連さんからのおさがりなんですよ。

三軒茶屋・下北沢「Small World」店主 田中智紀さん

三軒茶屋・下北沢「Small World」のショップバッグ
現在のショップバッグは、コラージュ作家・五反田和樹さんが手がけたもの。これも田中さんからの「ダメもとのお願い」がきっかけで生まれた。

ーー周囲の方との縁を大切にされてきたんですね。

田中さん:ビールも最初から樽で出したかったんですが、とにかく知識がなくて。飲食店で働いた経験もなかったから、どうしたらいいか分からなかったんです。だから最初はボトルで置いてました。

昔お世話になったジャズバーのマスターとか、友達の行きつけのビアパブ・グレムリンの戸原さんに『だったらこうしたらいいよ』って色々教えてもらって、やっと導入できて。でも全くの未経験だったのに、こうして周りになんでも教えてくれる方がいるって、本当にぼくは運が良かったなと思ってます。経験ゼロ・実力ゼロでもなんとかなってますからね。

三軒茶屋・下北沢「Small World」のビールサーバー

ーー常連の方も多くいらっしゃって、傍目からはとてもうまくいっているように見えますが、田中さん的には今の「Small World」って何点くらいなんでしょう?

田中さん:う~ん……。まだこの店は「60点」くらいかなって思ってます。

ーー60点! 結構厳しいですね。

田中さん:まだまだこのお店で出来ることはあると思ってて。毎日満席になって、レコードも飛ぶように売れて……っていう状態にしていきたいなと思ってるんです。少なくとも、オープン前後を支えてもらった方に『なんかうまく行ってるみたいじゃん、手伝ってよかったな』と思ってもらえるくらいには、なりたいですね。

ローカルな「町の酒場」になりたい

ビールの入ったパイントグラス

ーーお店で置くビールのこだわりはありますか?

田中さん:ロンドンの行きつけのビアパブで、人種・世代問わず様々な人たちと交流しているうちに「将来自分がお店を始めるなら、地域の人が毎日のように集まれる場所にしたい」と思うようになったんです。

だから店に置くビールのビアスタイルは、なるべく被らないようにしていて。IPAばっかり、とかだと、毎日のように来てくれる常連さんも飽きちゃいますから。

三軒茶屋・下北沢「Small World」店主 田中智紀さん

田中さん:仕事帰りにふらっと立ち寄って、ビールと音楽を楽しんで帰る。そんな使い方をしてもらえたらいいなと思ってるので、あんまり一杯の金額が高くなるようなビールは置いてないですね。日常的に楽しめる値段で提供できるビールの中から『これだ!』と思ったものを出すようにしています。

……なんだか値段のことを言う店主って嫌ですね(笑)。でも、大事なことなので。

クラフトビール好きの方はもちろんですけど、『銘柄には詳しくないけど、Small Worldで置いているビールはおいしい』って喜んでくれる地域のお客さんのことも大事にしたいなって思ってるんです。

三軒茶屋・下北沢「Small World」で売られているレコード

田中さん:店には色々レコードも置いてますけど、基本的にはお客さんと話して、その人が好きそうなものをかけているんです。こちらの趣味とか好きなものを押し付けることはしたくなくて。その人にとって楽しく飲める空間であればいいなと思って、かける音楽を決めてますね。

自らのペースで「好きに夢中」になればいい

ーー最後に、「自分の好きに夢中に生きる」ことについて聞かせてください。31歳で仕事を辞めて留学、全く経験のなかった飲食店の開店と、田中さんは自分の興味のあることを思い切って実行されている方なのかなと思うんですが……。

田中さん:ああ……ぼく、全く思い切りはよくないんです(笑)

裏通りのドンダバダをグラスに注ぐ
「裏通りのドンダバダ」を飲みながら、お話を伺いました。

ーーえーっ、そうなんですね! 全然そんな風に見えなかったです。

田中さん:ぼく、何にしてもめっちゃ考えるんです。店のオープン前にも、犬の散歩中に『あ、今日はこの話しようかな』っていうのを考えないと、お客さんと話せない(笑)

『Small World』を始めた時も、こういうことをしようとか、こんな内装にしようとか、イギリスから帰ってきてずーっと考えていて……結局、お店を開くまでにだいぶ時間が経っちゃいました(笑)。悪く言うと実行力がないんですけど、自分にはこのペースがちょうどよかった。

“自分の好きに夢中に生きる”というのも、人それぞれのペースでやれたら、それでいいんじゃないかなあって思いますね。最近は”行動力のある人はすごい”、”考えるより先に動け”、みたいなムードもありますけど、僕みたいに悩んだり、迷ったりしながら動いてたって、一応なんとかなってますから。

三軒茶屋・下北沢「Small World」店主 田中智紀さん

田中さん:レコードに針を落として、片面20分弱に集中したり。うまいビールをしみじみ飲んだり。忙しい現代、そういった時間をとるのも難しい人もいると思います。でもだからこそ、そういう贅沢な時間の使い方を『Small World』で提案していきたいですね。

おわりに

「Small World」のこぢんまりとした店内には、田中さんが厳選した、楽しく酔えるための音楽とクラフトビールが詰まっていました。こんなお店で飲むクラフトビールがおいしくないはずもなく! 取材後に音楽やビールの話をしながら楽しい時間を過ごしました。

音楽やクラフトビールに詳しい方はもちろん、そうでない方も暖かく迎えてくれる町の酒場、「Small World」。ちょっとほっとしたい時に、ぜひ行ってみてくださいね。

三軒茶屋・下北沢「Small World」店主 田中智紀さん

(おわり)

店舗情報

三軒茶屋・下北沢「Small World」外観

Small World
東京都世田谷区太子堂5丁目30−6 伊藤ビル 1F
TEL:03-5787-8806
WEB: https://shop.mustdestroy.net/
Instagram: https://www.instagram.com/smallworldrec/

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