「即レスの人って、ホントに優秀ですかね?」“ペース第一”田我流の流儀
1997年、「よなよなエール」でクラフトビール業界に乗り込んだヤッホーブルーイング。このたび、「水曜日のネコ」以来10年ぶりの全国向けレギュラー製品が完成しました! その名も、「裏通りのドンダバダ」です。
このビールのコンセプトが「自分の“好き”に正直に生きること」。まさにそれを体現している存在としてわたしたち(特に社内のジャパニーズヒップホップ好きたち!)がまっさきに思い浮かべたのが、山梨在住のラッパー田我流(デンガリュウ)さんでした。
先述のヒップホップ好きメンバーで結託しオファーを差し上げたところ……よもやの快諾! 裏通りのドンダバダのブランドムービーに、曲を書き下ろしていただくことができました! せっかくなので、今回の曲に込めた意味からはいって、田我流さんのスタイル、果ては現代社会に対して思うところまで、スリリングでエモーショナルな話を聞いています! 聞き手は、ライターの阿部光平さんです。
「裏通りのドンダバダ」のブランドムービーはこちら👆
自分に必要な予定は、仕事よりも先に入れる
ー『裏通りのドンダバダ』は、「自分の好きに夢中で生きる」というコンセプトで作られたクラフトビールになります。テーマ曲の制作を引き受けるにあたり、どんなところに共感されましたか?
田我流:共感っていうより、俺はそのまんま「自分の好きに夢中で生きる」って感じでやってきちゃってるので。自分のやりたいことをして、フリーターをやってて、気がついたらお金を稼げるようになって、今、みたいな。就職したこともないし、やりたいことしかやってきてないんですよ。まぁ、その道のエキスパートって感じっすね(笑)。だから、自分の思ってることをサラッと書きました。
ー歌詞はたった数日で書き上げられたそうですね。
田我流:そうっすね。コンセプトを聞いたときに、言いたいことは決まってたんで。こういうのってあんまり時間をかけるより、トントントンって書いたほうが上手くいくんですよ。
ー今回作ってくださった『Easy, You Busy feat. Ringo from Dunns River』は、「焦らず自分のペースで生きていこう」というテーマの曲だと感じました。この曲に込めた想いを聞かせてください。
田我流:この曲で書いたことは、俺の願望でもあるんですよ。ちょっと忙しすぎるから、ゆっくりいきたいなって。いつかこういう曲を作りたいと思ってて、その気持ちが今回の依頼とちょうど一致したって感じです。
ー「働き過ぎでMadだぜ最近」や「急かすなよ 自分のリズムでWalkin'」といった歌詞がとても印象的でした。自分のペースを失う弊害って、どんなことだと思いますか?
田我流:やっぱ人に対する当たりがキツくなっちゃうんですよ。忙しすぎると、ゆとりがなくなるんで。俺は山梨に住んでるんで、そういうところでけっこう解消されてるとは思うんですけど、ゆとりがなくなるといいことないっすよ。金を持ってても、当たりが強いやつになっちゃったら嫌じゃないですか。
ーそうですよね。田我流さんは忙しさを遠ざけて自分のペースを守るために、何か意識していることはありますか?
田我流:どっちもどっちなんですよね。ずっと忙しいと頭がおかしくなるけど、忙しくなかったら生活が厳しくなるんで。だから、忙しさを遠ざけるっていうよりも、ちゃんと休みをとるって感じですね。俺の場合、自然とスケジュールが空くんですよ。
ーえぇ!? どうやったら自然とスケジュールが空くんですか?
田我流:わかんないっす。ノリで生きてるから(笑)。
田我流:とりあえず、「そのときに必要なことは、そのときに必ず訪れる」って考えてますね。だから、「時間が空いたら、どっかに行くべきだ」と思ってるんですよ。
ー流れに身を任せているってことなんですかね。
田我流:予定は立てますよ。仕事の予定はね。でも、自分は釣りをするんで、釣りの一番いい時期には最初から他の予定を入れません。そのためのお金を貯めておいて、旅に出ちゃうんで。
ー先に釣りのスケジュールを入れてしまうんですね(笑)。
田我流:入れちゃいますね。そのときに別の依頼がきちゃったら、残念だけど断る。それが一番重要なことなんで。
ー釣りが、人生に寄り添っている感じなんですね。
田我流:俺の場合、仕事も遊びも全部が混ざっちゃってるんですよ。酒がすごく好きで、そろそろ酒の仕事がくるだろうなと思ってたら、今回みたいな話がきたりね(笑)。本当にそういうノリで生きちゃってるんで。
同じように、釣りのシーズンになると、だいたいいい釣り場の近くから、イベントのオファーがくるんですよ。たぶん、オーガナイザー自身が釣り好きで自分も行きたいから、俺のところにオファーくれてるんです(笑)。そういう人と一緒に釣りに行って、ライブもしてって感じですね。
ー田我流さんが釣りにハマったきっかけって何だったんですか?
田我流:面白かったからじゃないですか。小1くらいからずっとやってるんで、ちょっと説明はできないっすね。俺のなかではナチュラルすぎちゃって。
今は日本中に釣り好きな友達とか、オーガナイザーをやってるBボーイがいるから、そういう人たちと一緒に行ってます。俺、ただの釣り好きとは一緒に行かないんですよ。釣りも音楽も両方やる人と行くのが好きだから。
ーそれは何か理由があるんですか?
田我流:やっぱノリが合う人とじゃないと楽しくないじゃないですか。ゴミを捨てる人とか嫌ですよね。そういう人とは飯を食いに行ったりもしないし。だから、自然とノリの合う人と行くようになりました。
大人はなぜ夢中になれないのか?
ー「自分の好きに夢中で生きる」って、どういうことだと思われますか?
田我流:夢中ですからね。夢の中にいるってことですよね。何も考えずに集中してるっていう。
最近、よく考えるんですよ、夢中とか、無心とか、無我って、大人にはあまりできないんだなって。夢中って、子どもの代名詞みたいな言葉じゃないですか。だから、本当は大人のほうが負けてるんですよ、夢中ってことに関しては。みんな勘違いしてるけど、子どものほうが全然すごいんで。
ー確かに、子どもの夢中さには敵わないですよね。
田我流:子どもは何をするにしても人の目なんか気にしてないし、歌だって上手くても下手でも歌うじゃないですか。でも、大人になると下手だから歌わないとか、自分で勝手に世界を狭めちゃってるでしょ。「歌は才能のある人がやることだ」なんて思ってる人もいるけど、本来はそうじゃないんですよ。
だから、表現ってことに関して、俺たち大人は子どもに負けてるって考えてますね。子どもたちのほうが、ヤバいこと考えてるんだって。でも、本当は大人もみんなそうあるべきだと思います。なかなか難しいですけど。
ー大人が夢中になることを妨げているのは何なんですかね?
田我流:社会とか、教育とか、概念とかじゃないですかね。夢中になるって流れのなかに身を置くことだから、自分の範囲の外に出ないとダメなんですよ。今までの自分を手放すっていうか。でも、自分を手放すのって怖いじゃないですか。だから、大人は夢中になれないんだと思います。
ーあぁ、大人になるほど守りに入っちゃうっていうのはあるかもしれないですね。
田我流:今までいた場所から外に出て、これまでの経験が通じないって状況になったときに、はじめて元の自分に戻るんですよ。自分を守るものや、自分が誇っていたものがなくなったときに。
田我流:だから、あえて自分を手放すことが、日常のなかでも重要なんじゃないですかね。今まで行ったことのない店に行ってみるとか、自分がいつもやってるルーティンを崩すとか。夢中って、たぶんその先にある気がするんですよ。
ーそこって計画的にいける場所じゃない気がしますね。ある種の偶然性があってこそ辿り着けるというか。
田我流:夢中ってオートマティックなんですよ。気づいたら、もうそこにいるみたいな。恋愛なんて、まさにそうじゃないですか。
田我流:あとは、スマホがなければいけるんじゃないですかね。今は、いつどこにいても連絡や通知がきちゃうから、周りに意識が引っ張られちゃうでしょ。
ーそうですね。SNSなんかやっていると、ついスマホのことが気になっちゃいます。
田我流:しかも、「レスの早い人が優秀」みたいな考え方があるじゃないですか。でも、本当に優秀なのはレスの遅い人だと思うんですよ。
ーレスの遅い人が優秀……?
田我流:だって、自分のペースを守っていて、相手のペースに乗ってないわけですから。できる人間は連絡が早いって思われてるけど、それはできない人間ですよ。相手に影響されて、そういうふうに「させられちゃってる」ってことだと思うんで。
ーなるほど。自分のペースや意思を守れていないってことなんですね。
ー何かと忙しい世の中で自分のペースや意思を取り戻すには、どうしたらいいんですかね?
田我流:例えば、旅行へ行くなら3泊4日がいいんですよ。2泊3日じゃダメなんです。
ーどうしてですか?
田我流:3泊4日くらいから、はじめて「あっ」って思う瞬間があるんですよ。1泊2日では、無心になれません。家に帰ったときに待っていることに対して、まだ体が反応しちゃうから。
ー日常から離れきれていないってことなんですね。確かに1泊2日だと、最初から帰りのことがチラついてしまうかも。
田我流:そうそう。3泊4日くらいで、はじめて「ただ草を見つめる時間」みたいなのが生まれるんですよ。そこでようやく本来の自分を垣間見ることができるっていう。それが俺の持論っすね(笑)。
ーあー、わかる気がします。
田我流:3泊4日、ただひたすら釣りだけをしてて、「もう二度とやりたくない」って思うところまでいって、はじめて無心になれるんです。しかも、釣れなかったときなんかは最高ですよね。
ーあはははは(笑)。
田我流:「何をやってたんだ、俺は」って(笑)。この時代に、そういう時間を持てるのは超贅沢な浪費ですよ。ただボケーっとして、「あ、今、俺ボケーっとしてた。やべー」みたいな。そこが一番重要なんで、本当は。
仕事を定時であがるのは、自分の人生を作っていくためのスキル
ー「好きなこと」と「仕事」の関係性って、どのように捉えていますか?
田我流:俺はヒップホップが好きだけど、聴きすぎるとしんどくなるときもあるっすね。仕事になっちゃうと、いろんな考え方がありますから。3番目くらいに好きなものを仕事にしたほうがいいかもしれないし、好きなものはピュアに残しておいて別の仕事をするのがいいかもしれない。そこはさじ加減じゃないですかね。自分の人生の楽しみ方だから。
ーその距離感はライフステージによって変化していきますか?
田我流:まぁ、結婚して、子どもが生まれたっていうのは大きな変化ですよ。だけど、ライブは大切なことなんで、一生懸命に100%でやりたいじゃないですか。適当な気持ちではできないっていうのは変わらないですね。
田我流:やることが増えて忙しくなったとしても、それも人生の一部だし、選んだのは自分ですから。そこで自分を向上させる術を学ぶしかないですよね。スキルって、そういうものなんじゃないですか。会社員の人が定時で仕事をあがるのって、スキルだと思うんですよ。自分なりに仕事の効率を上げて、定時で終わらせて、家族との時間を作って、夜は自分の好きなことをするとかね。
ーそれはまさに自分の人生を作っていくためのスキルですね。
田我流:基本的に周りは全部壁だけど、ぶつかるたびに頭をフル回転させて、ひたすら超えていくみたいな。それが人生の遊びなんじゃないかなって、今は思ってますね。越えたら越えた分、経験値が増えていくし。
ー壁を越えるごとに、自分のやれることが増えていきますもんね。
田我流:もうゲームみたいなもんですよ。予測不能な世界を生きるってことを、どうにかして楽しんでいくっていう。ピンチになったら、「やべー、めっちゃ盛り上がってきたわ」みたいな(笑)。
田我流:コロナだってそうですよ。ちょうど子どもが大きくなって、しゃべりはじめたタイミングでコロナ禍になったので、けっこう一緒にいられましたから。「やったー!」って感じでしたよね。
ー田我流さんは、常に目の前の状況をポジティブに捉えてるんですね。
田我流:Bボーイって、そういう感じなんじゃないかな。何事も発想の転換なんで。フレッシュって、そういうことでしょ。できるだけいい方向に、自分の都合よく考えるっていう。
ー解釈によって、ピンチも楽しさに変えられると。それってヒップホップ的なマインドなんですかね?
田我流:もう完璧にそうですね。これはもう変えられないです。俺は既にそうなっちゃってるので。
「飽きる」に対して素直であるために
ー音楽や釣りなど、好きなことを続けていくなかで、「飽き」にぶつかることはありますか?
田我流:何をやってても飽きはきますよね、絶対に。だから、それとどう対峙するかに人間の技量が問われるんじゃないですかね。仕事の方法じゃなくて、飽きと対峙する方法に。
ー田我流さんは、どのように飽きと対峙しているのでしょうか?
田我流:まず自分に素直でいないとダメですよね。嫌な気持ちのままやってることに気付いてない状況が、一番危ないので。だから、飽きに対しては、ものすごく正直であるべきだと思います。「今やりたくないな」と感じたら、距離を置いたり、やめることも大事だなって。
ー飽きに対して敏感でいることが大事なんですね。
田我流:やりたくないことは、やらないほうがいいですから。やりたくないと思ったら1日でも1年でも距離を置けばいいし、なんだったら一生やらなくてもいい。それはきっと、そういうタイミングってことなんで。またやりたくなったら、やればいいんですよ。
田我流:飽きから抜け出すには、他のことをしなきゃいけないと思ってて。なぜかというと、すべての物事には終わりがないので、突き詰めようと思ったら永遠に続いていっちゃうんですよ。そうすると「自分がこれをやっていること」に飽きているのか、「これをやっている自分」に飽きているのかが客観的に判断できなくなるじゃないですか。
ー自分が何に飽きているのかがわからなくなってしまうと。
田我流:そうなったら、距離を置こうにも置けなくなっちゃいますよね。適切に距離を置けば、解消するかもしれないのに。そうならないためには、全然関係ないことをやったほうがいいんですよ。俺だったら、こうやってインタビューを受けるとか、趣味の何かをするとか、お酒を飲むでもいいし。
ーそうすることで、飽きを客観的に見つめ直せるんですね。
ー今後、こんなふうに暮らしていきたいというビジョンがあれば聞かせてください。
田我流:50歳くらいで、全然違うことをやりたいですね。何かないか探してて、まだ見つかってないんですけど。まぁ、見つからなかったら一生音楽をやっていようかなと思ってます。
ー新しいことを探しているのは、飽きから逃れるためですか?
田我流:いやいや、単純に楽しいことがしたいだけです。これ以上に面白いことがあるんだったら、やってみたいなって。それに、今は歌えてるけど、急に喉がダメになって音楽人生にピリオドが打たれる可能性もあるじゃないですか。きっと最初は受け入れるのが大変だと思いますけど、どんなことがあってもなるべくフレキシブルにやろうとは思ってますね。
ーそういういろんな体験がすべて音楽にかえってくるのが、ラッパーという生き方って感じがしますね。
田我流:そうですね。インプットは無限にあるけど、アウトプットがヒップホップっていう。そんな感じですかね、今のところは。
***
取材・執筆:阿部光平
写真:小林直博
編集:ツドイ
(おわり)
【裏通りのドンダバダのブランドムービーソングが、好評配信中!】
▼Digital Single: 田我流 "Easy, You Busy feat. Ringo"▼
URLs :
https://backcityblues.lnk.to/easyyoubusy
ラッパー:田我流が、新曲"Easy, You Busy feat. Ringo"を本日(4月01日)リリースした。狩猟採集時代の型落ちの脳みそで、情報量過多すぎるマルチタスクな世の中を生きるのには無理がある。空の上ですらWi-Fiが飛び、メールが地の果てまで追いかけてくる、、『こんな時代に誰がした、コマネチ』。超Busyな日々を生きる我らにエール(応援歌)を贈るべく、山梨は一宮町出身の日本人を辞めた自由人の地球人こと田我流が漫画『ONE PIECE』ばりに仲間たちと一緒に立ち上がった。
サウンド・プロデュースは田我流のオルターエゴ:Falcon a.k.a. Never Ending One Loopが手掛け、ギターにGorilla Head(A SEH ONE TONES)、鍵盤にNagipan(ex. MICHEL☆PUNCH)、客演にはかねてより田我流が共演を熱望していたDunns River(ドンズリバー)のRingo、エンジニアには得能直也を迎え、Topical Reggae Hiphopが完成した。最高なアートワークは盟友NEHANBROWNが担当している。また、本楽曲は日本を代表するクラフトブルワリーであるヤッホーブルーイングの新製品「裏通りのドンダバダ」のブランドムービーにも使用されている。