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「きのこの声を聞く」ホクトの“きのこ職人”に聞いた、おつまみにも最高な、ウマいきのこができるまで。

「きのこの声を聞く」ホクトの“きのこ職人”に聞いた、おつまみにも最高な、ウマいきのこができるまで。

こんにちは、よなよなスタッフの「いっくん」です。

最近は秋の食材でおつまみをつくるのが日課になっているのですが、その中でもよく使うのが……「きのこ」なんです。

長野のスーパー・ツルヤ御代田店のきのこ売り場
長野のスーパーのきのこ売り場。写真の端から端まできのこ!

僕たちヤッホーブルーイングの醸造所がある長野県は、きのこの生産量日本一のきのこ大国! 近所のスーパーに行くと、写真のようにずらりときのこが並んでいます。シイタケやシメジなどポピュラーなものはもちろん、ハナビラタケやタモギタケなど珍しいものまで多種多様。

生産地が近いおかげか価格も控えめなものが多く、家計を助けてくれる食材として僕も重宝しているきのこ。ただ、季節を問わずいつも売り場に並んでいるきのこを見ると、こんなことを思うようになりました。

 

「きのこって、どこでどうやってつくられてるんだろう? 」

 

キャベツやトマトなどを育てている風景はパッと思いつくのですが、きのこがどうつくられているのかは、全く想像がつかなかったんですよね。全て畑でつくっているんだとしたら、天候の影響などで不作になったりする年もありそうですが、そんなニュースを見たこともありませんでした。

「通年で売り場に並べられているけど、どんなところでつくってるんだ……?」
「工場みたいなところで、大量生産してる……?」

長野のきのこメーカー・ホクト本社

……そんなもやもやを解決するべく、今回は「きのこのこのこ げんきのこ♪」のCMでおなじみ、長野のきのこメーカー「ホクト」さんに伺って、きのこづくりの裏側や、おいしいきのこの食べ方を教えてもらいました!

※この記事は、よなよなの里の10月特集企画「おいしいものは、だいたい菌で出来ている。」の第一弾です。
※取材は新型コロナウイルス感染症対策に配慮したうえで2021年9月に行われ、撮影の際だけマスクを外しています。

話を聞いた人:横山知之さん

ホクト株式会社 佐久第二きのこセンター所長 横山知之さん

2002年にホクト産業株式会社(現ホクト)入社。きのこ総合研究所を経て、ホクトメディカル株式会社、HOKTO KINOKO COMPANY等の立ち上げに携わり、現在は「佐久第二きのこセンター」の所長を務める。学生の頃からきのこ研究に取り組むきのこ好きで、エリンギ栽培のプロフェッショナル。

1日10トンを生産するきのこ工場に潜入!

いっくん:
今日はよろしくお願いします。早速なんですが……工場がめちゃくちゃ大きいですね! ゲートからここ(会議室)に来るまで10分くらいかかりましたよ!
こちらでは、普段どれくらいの量のきのこを生産されているんでしょうか?

横山さん:
この(長野県)佐久第二きのこセンターは、全国に34あるセンターのひとつで、1日の生産量は約10トンほどです。このセンター全体で150名を超えるスタッフがいまして、エリンギを生産しています。

ホクト 佐久第二きのこセンター

いっくん:
10トン! その量のきのこを生産する工場の中ってどうなっているのか、そもそもどうやって育てているのか、全く想像つかないな……。

横山さん:
たくさんのエリンギが育つ生育室の中なんて、壮観ですよ。簡単にきのこができるまでの工程を解説しますね。

①培地づくり・詰込

きのこができるまで 培地づくり・詰め込み

とうもろこしの芯を乾燥させて砕いたものや米ぬか、水などを混ぜ込んだ培地(きのこを育てるための土のようなもの)をビンに詰める。

②殺菌

きのこができるまで 殺菌

高温・高圧の殺菌釜で培地とビンを殺菌。

③種菌接種・培養

きのこができるまで 種菌接種・培養

培地に、無菌室できのこの菌を植え付け、培養室で菌を育てる。

④菌掻(きんかき)

きのこができるまで 菌掻

菌の生育を活発にするために、培地の一部を掻き取る。こうした刺激を与えることで「子孫を残さなければ!」というきのこのスイッチが入り、育ち始める。

⑤芽出し・生育

きのこができるまで 芽出し・生育

温度が低くしっとりとした、秋の森のような環境の生育室できのこを育てる。およそ2週間ほどで成長。

⑥収穫・包装

きのこができるまで 収穫・包装

成長したきのこを収穫し、出荷!

参考:工場見学MOVIE「きのこができるまで」

「0.1℃」が生育を左右する?デリケートな「きのこ」ができるまで

ホクトのエリンギ

いっくん:
きのこってこんな感じでつくられているんですね! なるほど、こんな風に大量につくっているからこそ、全国の店頭でいつでも買うことが出来るのか~と腑に落ちました。

横山さん:
きのこは比較的安定生産・大量生産ができる作物なんですが、実は結構デリケートなところもあるんですよ。

いっくん:
菌を植えたらにょきにょき生える、っていうわけではないんですね。

横山さん:
きのこの菌が育つ「湿気の多い・暖かい環境」って、多くの菌にとっては天国のようなところで。きのこ以外の菌も育ちやすい環境なんです。菌を培養するタイミングでもし雑菌などが混入してしまうともう、大変ですね。

いっくん:
ビールの場合は静菌作用(菌の繁殖を抑えてくれる作用)のあるアルコール分が含まれているので、雑菌の繁殖を抑えられるような環境があるけど、きのこの場合は……

ホクト株式会社 横山知之さん

横山さん:
最悪、全滅です。

いっくん:
ひゃあ……。

横山さん:
そういうことが起こらないように、最初の菌の植え付けや培養の段階で厳重な管理を行っているんですけどね。といってもやっぱり、かなり神経を使います。

いっくん:
最初の工程が特に大事なんですね。その後の生育過程でも大変なことはある……?

横山さん:
あります。きのこって温度や湿度や光に本当に敏感で。温度でいえば、0.1℃の違いで思った通りに育ってくれないこともあるんです。

いっくん:
超繊細じゃないですか。

横山さん:
もちろん「ただ大きく育てる」だけならそこまで難しくはないんですが、私たちは決められた大きさや重さのものを安定的に生産しないといけないので、常に目指すべき品質基準があるんです。茎の太さや、傘の大きさ・厚み・巻き込み具合など、細かい条件をきっちり再現していないといけないんですよね。

ホクト株式会社 横山知之さん

いっくん:
でも、きのこも生き物だから寸分違わないものをつくるというのは……かなり難しい気がします。

横山さん:
そうなんです。ホクトでつくっているきのこは、基本的には全国どこでも同じ菌を使用しているんですけど、工場の環境等によって微妙にクセが出てくるんです。A工場でつくる時と、B工場でつくる時では、育ち方に違いが出てくることが往々にしてある。「なんだかこっちの工場の方が、傘の巻き込みが弱くなりがちだな」とか。

いっくん:
めちゃくちゃ大変じゃないですか。そういったバラつきは、どうやって調整するんですか?

横山さん:
どの工場でも品質基準を満たすきのこを作り出すのが、私を含め全国にいる「きのこ職人」の仕事なんです。

一流のきのこ職人は「きのこの声を聞く」

長野のきのこメーカー・ホクトのきのこ職人

いっくん:
きのこ職人?

横山さん:
きのこづくりのプロフェショナルです。独り立ちできるまでには最低でも3、4年はかかるんですよ。僕の場合、エリンギ一筋で20年以上携わっています。

いっくん:
まさに職人の世界だ……! 

横山さん:
さっきお伝えしたような「0.1℃を上げるか、下げるか」みたいな判断は、ここ何日間かのの外気温や湿度の変化、きのこの生育状況を把握するためのデータなど、様々な情報を処理して行うもので。機械ではなく、人間じゃないと判断が難しいんですよ。だからこそ、理論や自分の経験をもとに、適切な判断ができるようになるまで、修行を積む必要があるんです。

長野のきのこメーカーホクトの横山知之さん

いっくん:
職人さんの鋭敏な感覚が必要なんですね。でも正直、あんなにたくさんのきのこを育てていたら、一つ一つを管理する余裕なんてないのでは?

横山さん:
そこは「木を見て、森も見る」みたいな感覚で、生育室全体を見るようにしています。もちろんデータを重視していますが、時には自分の感覚が優ることもあります。

いっくん:
すごい。

横山さん:
あとは、こういうのですね。これ、芽が出始めたエリンギなんですけど……

芽が出始めたエリンギ左:菌掻直後のもの 右:芽が出て数日立ったもの

いっくん:
ポコポコ芽が出てる! 可愛いなあ。

横山さん:
この無数にある芽の中で「どれが育つのか」を見極めて、狙い通りに育てていったり。

いっくん:
???

横山さん:
この段階で「この瓶のエリンギの最終形」が見えるんですよ。それが理想的な(問題なく出荷出来そうな形)であれば、そうなるように気を使って育てますし。そうじゃない場合は、理想の形になるようにまた温度・湿度・光……を使って修正をかけていきます。

いっくん:
それができるようになるまでにも、かなりの時間がかかるわけですね。

横山さん:
その通りです。ホクトには「きのこの声を聞く」という言葉があるんです。一つ一つのきのこと真剣に向き合って、きのこが発している情報をキャッチし、「今このきのこに必要なことは何か?」を感じ取れるようにする、という意味合いなんですが。それくらい真剣にきのこと向き合って、状態を見極めながら、狙ったとおりに育て上げる。これがきのこづくりの最高に面白いところなんです。

ホクト株式会社のきのこ職人 横山知之さん

スーパーのきのこは「万に一つ」の確率で生まれるエリートきのこ?

ホクトの人気商品 生どんこ(しいたけ)

いっくん:
そういえばこの前「ホクトには毎年山に入って野生のきのこを採集してくる、きのこ採り専門の部隊がいる」っていう噂を聞いたんですけど、本当なんですか?

横山さん:
専門部隊ではないですが(笑)。確かに「菌株採取」という仕事はありますし、そこで得た菌を研究する部門もありますね。

いっくん:
噂は本当だったんだ……! でも、どうしてそんなことを?

横山さん:
今あるきのこをよりおいしくするためです。山に入って採取した菌と既存の菌などをかけ合わせたりして。おいしさや栄養成分などを調べたり、品種改良を重ねる研究を行っているんですよ。

ホクト株式会社 菌株採取の様子山に入り、きのこの菌を採取するときの様子。

いっくん:
へえ~! 年間で大体どれくらいかけ合わせたりするんですか?

横山さん:
大体10,000~20,000通りくらいはかけ合わせますね。

いっくん:
20,000! 気が遠くなる数ですね……。それを実際に食べたりして?

横山さん:
その通りです。その中から、今より優れたものが一つ出るかどうか、という世界ですね。実際に今流通しているきのこも、発売当初のものと今のものでは品種が違うんですよ。今の方が味わいや食感、さらには傘の厚みや色合い等も良くなっているんです。

いっくん:
今スーパーに並んでいるのは、何千何万の中から選ばれた超エリートきのこだったのか……。

エリンギの出荷シーン出荷直前の、超エリートきのこたち

横山さん:
他にも、「白いえのき」を開発したり。もともとブナシメジには独特な苦味があったんですけど、より食べやすくなるように「苦くないブナシメジ」を開発したのも私たちです。今ではどちらもそれが普通になっていますよね。

いっくん:
日本のきのこ界にめちゃめちゃ変革をもたらしてる!

横山さん:
開発チームが強いのも、私たちの強みで。毎年同じきのこをつくるだけじゃなくて、よりおいしいきのこをつくるために色々やってるんだな……ということだけでも、知ってもらえたら嬉しいですね。

ブナシメジとえのき

おつまみの定番に?肝臓に効く成分を秘めたきのこ

いっくん:
今日はありがとうございました。きのこのこと、詳しく知れてよかったです。
最後の最後に……「きのこはおつまみにもピッタリ」っていう噂を聞いたんですけど、これも本当ですか?

横山さん:
その通りです。きのこって実は、お酒好きの人にとっては嬉しい成分が山盛りなんですよ。例えば、肝臓に効くといわれている「オルニチン」っていう成分。これはシジミとかに含まれているイメージがありませんか?

いっくん:
ありますね。二日酔いの時は、シジミのお味噌汁が一番「効く」感じがします。

ホクト株式会社のきのこ職人 横山知之さん

横山さん:
ブナシメジって、シジミの5倍のオルニチンを持ってるんですよ※。
(※100gあたりに含まれるオルニチン量で比較。ホクト(株)きのこ総合研究所調べ)

いっくん:
めちゃめちゃすごい。

横山さん:
あとは、飲酒すると分解されてしまうビタミンB1! これが少なくなると疲労を感じやすくなったりするんですが、このビタミンB1も、きのこに多く含まれている成分です。あとは食物繊維も豊富で低カロリーなので、ヘルシーですし! きのこって本当にお酒を飲む人には嬉しい食材なんですよ!

いっくん:
勢いがすごい……でも確かに、おつまみとしてはかなり優秀そう!

横山さん:
ただ、きのこを茹でたり煮たりするとそういった成分が溶け出してしまうので注意が必要です。シンプルに焼いたり、もしくは煮汁ごと食べられるような料理が良いんじゃないかと思います。

いっくん:
なるほどなるほど。良かったらおすすめのレシピなども教えていただけないでしょうか。

きのことリンゴのハーブ蒸し
ホクト きのこレシピ「きのことリンゴのハーブ蒸し」から引用

横山さん:
今の時期だったら「きのことリンゴのハーブ蒸し」が良いですね。きのこのうま味と、リンゴの甘酸っぱさがすごく合うんですよ。他にも「きのこおでん」なんかもおすすめです。

いっくん:
きのこもリンゴもおつまみとして食べようという発想がなかったです……! やったことなかったけど、きのこのおでんもおいしそう。今度つくってみます!

横山さん:
ぜひ。ホクトのホームページには、 きのこを使ったレシピも沢山載ってます ので、よかったらそっちも見てみてください。

いっくん:
ありがとうございます。今日は帰ったらきのこ食べよう……!

おわりに

ホクト横山知之さんと、ヤッホーブルーイングのいっくん

普段スーパーで何気なく手に取っている、きのこ。その背景には、きのこづくりに情熱を注ぐ、きのこ職人さんがいました。ビールと同じく「菌」を扱う現場でしたが、その品質管理にかける熱量の高さには脱帽。話を伺いながら、思わず背筋が伸びてしまいました。

今回の取材できのことの距離が近づいた僕は、きのこを使ったおつまみをよくいただくように。おいしいし、ヘルシー! 冬太り対策にもちょうどいいかもしれないぞ……と思っております。みなさんもぜひやってみてくださいね!

きのことリンゴのハーブ蒸し
教えてもらった「きのことリンゴのハーブ蒸し」。「水曜日のネコ」との相性がピッタリで最高でした。

10月の「よなよなの里」では「おいしいものは、だいたい菌で出来ている。」というテーマに沿った特集企画をお送りしていきます。来週はチーズの企画をお届け予定。そちらもぜひお楽しみに!

ここまで読んでいただきありがとうございました。それではまたー!

(おわり)

撮影協力:ツルヤ御代田店

この記事を書いた人