【恥から学ぶ】ヤッホーブルーイング社長・井手直行に訊く、「動じないココロ」とは?
「よなよなエール」のヤッホーブルイーングが企画し、2021年8月4日(水)から始まった、“地球では言えない”恥エピソードから個性を再発見するオンライン参加型企画「BAR恥さらし」。
恥ずかしいと思うのは、人と違う「自分らしさ」が出てきた結果。恥はその人の「味」、つまりユニークな自分らしさなのではないか……。そんな気持ちで作った「BAR恥さらし」の“常連客”である、「てんちょ」こと、ヤッホーブルーイング社長・井手直行に恥についてのお話を聞きました。
井手直行・てんちょ
株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長。スタッフやファンの方々の間で呼ばれている「てんちょ」というニックネームは、インターネット通販 よなよなの里 楽天市場店で店長を務めていたことに由来。授賞式にはスタッフ手作りの仮装姿で参加する。
著書に『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります くだらないけど面白い戦略で社員もファンもチームになった話』(東洋経済新報社)。
マーケティングの極意はパチプロ時代に学んだ!?
——思い返してみると恥ずかしいなと思うエピソードはありますか?
やっぱり、パチンコで生計を立てていたことかな。社会人になって、2つ目の就職先を辞めたあと、無職になったんです。で、パチプロ生活を送っていました。当時はそんな恥ずかしいと思っていなかったんだけど。フラフラしてたので、今思い返すと恥ずかしいですね(笑)
——いきなり衝撃的なエピソード!どんなパチプロ生活を送っていたんですか?
収入源がパチンコしかないということは、なんとしても勝たないといけないわけですよ。そのために、私はとことん「市場調査」をしたんです。当時は朝の10時から夜の10時までパチンコ屋にいて、何時にどの台が当たるのか全部記録をつけていました。こうしたデータをとっていくうちに、次第に傾向が分かってきた気がして……。そうしたら本当に勝ちだして……!このままずっと生活していこうかなとおもったぐらいです(笑)
強いて言うならば、パチンコ屋で市場調査をしていた経験が、私のマーケティング思考の始まりだったのかもしれません(笑) 人の行動や、市場の規則性をみたりするっていう。
生活をかけてパチンコをしていたことは今思えば恥ずかしいけど、意外にも今の自分の仕事につながっているんだなって。それに気づいたのはだいぶ後になってからでしたけどね。
はじめての仮装は「とにかく恥ずかしかった」
——てんちょといえば、いろいろな授賞式で「仮装」をしているイメージがあります。あれって恥ずかしさはないんですか?
最初はめちゃくちゃ恥ずかしかったんです(笑)
——それは意外です!ノリノリにみえたので。そもそも仮装を始めたきっかけは?
あるとき、うちのスタッフがビール品評会の授賞式に仮装して参加したことがあったんですよね。すると、お客様がすごく喜んでくれたんです。それを見て、お客様に楽しんでほしい一心で「僕もやらなくちゃなぁ」と思い、恐る恐る挑戦してみようと決心しました。そして、2008年にネットショッピングモールの大手、楽天市場のベスト店舗を表彰する「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」の授賞式に「スノーボーダー」の仮装で挑んだのです。
——いきなりそんな大舞台での仮装……。どんな気持ちだったんですか?
とにかく怒られないかなとドキドキしていました。そうしたら、やっぱり受付で早速注意されてしまったたんです。その後、「どうしよう……」と言っていたんですが、やるしかないと思いまして。「これはもうお酒の力を借りるしかない!」と、パーティーが始まる前からビールをめちゃくちゃ飲みました(笑)
——お酒の力ですか(笑)
表彰式の時も、酔った勢いで、壇上から楽天の創業者・三木谷浩史さんに「写真撮ろうよ~!」と駆け寄りました。そして、実際に肩を組んで記念撮影をしたんです。その後、「本当に困りますから」ってスタッフの人に注意されて、ちょっと落ち込んだりもして……。ですが、後日、そのエピソードをホームページにアップしたら、お客さまに大好評だったんです。「あんな大舞台で仮装するなんて!面白かった!」と。それでちょっと元気をもらい、その後も仮装を続けようと思えたんです。
でもやっぱり慣れるまでは恥ずかしかったんですよね。ただ、何度も繰り返すうちに「注目を浴びている環境で最高のパフォーマンスを発揮できる」のが自分の強みだと気づきだして、恥ずかしいという気持ちもなくなってきました。
今ではノリノリで仮装しますよ。もうスーパースターみたいな気分で、「みなさんお待たせしました!」みたいな(笑)
——周りの目は気にならなかったんですか?
最初の頃は結構気にしていました。「恥ずかしいことしてるな」って冷たい目で見られることも多々ありましたし。もうやめようかなとも思ったこともあったんですが、お客様に楽しんでもらおうと、とにかく必死でした。「やらなきゃ!」という使命感のほうが勝りましたね。
そんな風に回数を重ねるうちに、「ここまでやると怒られるな」とか「強く不快に感じる人がいるかもしれない」といったラインが分かるようになってきました。そして、終わったあとに主催者や表彰式スタッフ、他の参加者に「今回もお騒がせしました!」「ありがとうございました!」とお礼を伝えるなど、周りに配慮もできるようになりまして。そうすると、ちょっとずつ周りの見る目も変わって、会場のみなさんが応援してくれるようになったように感じています。今では、季節の風物詩みたいに思ってくださるようです(笑)
恥から学んだ動じないココロ
——ちなみに、最近恥ずかしいと思ったことはありますか?
うーん、思いつかないな。最近はあんまり恥ずかしいと思わないんですよね……。ささいな恥ずかしいはちょこちょこあるんですけど。過去の恥ずかしかった出来事は色んな場面で話しすぎて、もはや恥ずかしくなくなりました(笑)
——テレビの取材や講演会で「失敗したら恥ずかしいな」と不安になることはないんですか?
全く無いですね。失敗した記憶がないんです。まぁ、ハタから見たら「あれは失敗だろう」と言われるようなことはいっぱいあると思うのですが(笑)失敗と思わないんです。たとえ何かあっても、失敗ではなく、成功のために試行錯誤した結果だと思っています。「それはちょうどいい」の考えで、失敗談で楽しんでもらうこともできますし。
——たくさん恥ずかしい経験をされてきたからこそ、今は何事にも動じなくなったと。
そうですね。それに、人に対しても寛容になりました。例えば、なにかやらかしてしまった人を目の当たりにしても、「人生色々あるんだから、そんなに責めなくてもいいんじゃないか?」と。若いうちに色々なことを経験するのは、人生の幅を広げることにつながると思うんです。私自身も、色々恥ずかしかった経験をしてきたからこそ、今の自分がありますからね。