よなよなエール公式サイト

ビールが脳に良いってほんと? キリンの研究者に聞く、発酵が持つ健康パワー

ビールが脳に良いってほんと? キリンの研究者に聞く、発酵が持つ健康パワー

こんにちは! よなよなの里編集部の今井です。

「ビールが脳に良い」って聞いたことありますか? ビールと、脳。2つの言葉は縁遠いように感じられますし、にわかには信じられないですよね。そもそも、ビールはお酒好きの中でも「飲み過ぎると太る」「痛風になるかも」と多く飲むのを避けられがちなお酒です。「ビールは1杯目だけ、2杯目からはハイボール」なんて人もいるくらい。正直、ビールが健康にいいイメージはありません……。

でも、「ビールの成分が脳に良い」という研究が論文で発表されたそうなんです! 従来のイメージから半信半疑ながらも、「本当なら朗報だ!」と興味津々になった私たち。真偽を確かめてみなさんにお伝えするため、研究者の阿野泰久さんに直接お話をうかがうことになりました!

快く取材を引き受けていただいたはいいものの、研究者の方とお話しする機会なんてめったにありません。ビールの話は聞きたいけれど、難しい話が延々と続いたらどうしよう。理系じゃないから、化学は全然分からないし……。

そんな不安を抱えたまま、ビールを片手にリモート飲み会スタイルで、取材の幕は切って落とされました。聞き手は、わたし今井と、よなよなの里編集部のぎんです。

話を聞いた人:阿野泰久さん

キリンホールディングス株式会社 R&D本部 阿野泰久さん キリン中央研究所 主任研究員

キリンホールディングス株式会社 R&D本部 キリン中央研究所 主任研究員。2009年、キリンビールに入社。2012年に農学博士号取得。認知機能や免疫機能に関する研究を行う。2015年には、カマンベールチーズから認知機能改善に繋がる成分「βラクトリン」を発見。現在はホップ由来のビールの成分についても研究中。

ビールの苦味成分「イソα酸」が持つ、脳へのダブル効果。

今井:
今日はよろしくお願いします!

阿野さん:
よろしくお願いします!

一同:
かんぱーい!

キリンビール 研究者 阿野泰久さん

今井:
さっそくですが、ビールの成分が脳に良いって本当なんですか……?

阿野さん:
本当です! 今井さんは、赤ワインに含まれるポリフェノールが脳や心臓病に良いって聞いたことありません?

今井:
ありますね。健康のために赤ワインばかり飲んでるって人もいるような。

阿野さん:
そうそう。でも、お酒の中で赤ワインだけが贔屓されるの、ずるくない?と思って(笑)。ビールにも何か良い成分入ってないかなーと思って研究してみたんですよ。

今井:
軽いきっかけから研究が始まったんですね……!(笑)

株式会社ツドイ 編集者 今井雄紀さん

今井:
「ビールの成分が脳に良い」と聞いてもあんまりイメージが出来ないです。ビールの何が、どんなふうに脳に作用するんですか?

阿野さん:
ビールの中に含まれる「イソα酸」という苦味成分が、脳の認知機能を高めてくれるんです。

今井:
イソα酸……? 文系出身の私にも分かるように、簡単に教えてください……!

阿野さん:
もちろんです! 今井さんは緊張してお腹が痛くなったことってありますか?

今井:
あります、あります。

阿野さん:
まず、そんなふうに脳とお腹の状態って密接に関わっているんですよ。

ビールの苦味成分イソα酸は、お腹に届くと、お腹の中の「苦いと感じるスイッチ」(特定の苦味受容体)をオン(活性化)にします。このスイッチをAとしましょうか。お腹のスイッチのオンオフは、当然脳にも影響があります。

Aスイッチが押されると、脳には「シャキッとしなさい!」って刺激が届くんです。専門的に言えば、脳腸相関を活性化してドーパミンやノルアドレナリンなどの成分が増える。この刺激が、結果として認知機能を高める作用になります。

ぎん:
なるほどー。苦味が頭をシャッキリさせてくれるっていうのは分かりやすいですね。

キリンビール 研究者 阿野泰久さん

阿野さん:
さらに、もうひとつ大事な効果があります。

脳って毎日毎日、老廃物が溜まっていってるんですよ。専門的にはアミロイドβと言います。歳を重ねるにつれて少しずつ老廃物が溜まっていった結果、脳の細胞が死んでしまう。それで認知機能が衰えていくんですね。

一方で、脳の中には老廃物を取り除いてくれる細胞もいるんです。自分で脳の中をウロウロしてパクッとゴミを食べてくれる、お掃除ロボットのルンバみたいな細胞が。専門的にはミクログリアと呼ばれています。

ぎん:
へぇー! 

阿野さん:
でも、ルンバが便利だからってずーっと無理やり働かせ続けたらどうなると思います?

ぎん:
ルンバの過剰労働ですね……。本物のルンバなら、ウーーンと唸って熱くなったり、ゴミが詰まって吸い込みが悪くなったりしそうです。

阿野さん:
まさに脳のルンバもそうなんです。「モーターが限界です!」「これ以上食べられないよー」って悲鳴をあげちゃう。脳のルンバが悲鳴をあげた状態は、脳の中で「炎症が起きている」状態です。ただでさえ毎日老廃物が溜まっていくっていうのに、炎症も起きると、さらに脳にストレスがかかります。

イソα酸には、この脳のルンバのキャパシティを高める作用があるんです。ルンバのグレードアップって感じですね。炎症を起こさずに、老廃物をたくさん食べられるようになる。

ぎん:
おぉー、イソα酸すごい! 

ヤッホーブルーイング よなよな編集部 ぎん

ぎん:
でも脳に老廃物が毎日溜まっていくって怖いですね。定期的に取り除くことは出来ないのかな。

阿野さん:
そうですよね。実際に、老廃物を取り除く化合物を使った試験もあります。だけど、脳に老廃物がたくさん溜まって、既に脳の神経細胞が死んでしまった後に投与しても認知機能はもとには戻らなかったんですよね。

ぎん:
えーっ!? 後戻り出来ないんだ……。 

阿野さん:
だから、神経細胞が死んでしまわないように「老廃物を溜めない」という毎日のケアがとても大切なんです。

今井:
なるほど。イソα酸は、どれくらい摂ったら効果が得られるんですか?

阿野さん:
MRIを使った試験で、苦味の強いビールに含まれるくらいの濃度のイソα酸を含むノンアルコール飲料を毎日コップ1杯程度を1ヶ月間摂取すると、変化が出始める可能性があると報告している論文が出ています。

今井:
1ヶ月で! 意外とすぐに効果が得られるんですね。

阿野さん:
はい。今は簡単に説明しましたが、「脳の認知機能に効果がある」と言っても、「記憶力が飛躍的に伸びる!」ということではありません。イメージとしては、普通に暮らしていたらなだらかに落ちていくはずの記憶力が、維持できるようになる感じですね。

キリンビール 研究者 阿野泰久さん

キリン×ヤッホー、脳に良い最強の晩酌セット!

ぎん:
苦味ってすごいんですね! 今日から苦いものをたくさん食べようかな。

阿野さん:
苦ければ何でもいいってわけじゃないですよ。苦味と言ってもいろいろあるでしょう? ビールの苦味、ゴーヤの苦味、コーヒーの苦味。ピリッとする苦味とか、後に引くような苦味とか。それぞれの苦味が押すことの出来るスイッチ(苦味受容体等)の種類は違うんです。

その中で、脳に良いAスイッチを強く押せるのが、イソα酸の特徴です。

キリンビール 研究者 阿野泰久さん

ぎん:
そうなんだ……! イソα酸はビールにしか入ってないんですか?

阿野さん:
そうなんです。イソα酸は、ホップと呼ばれる植物からしか出てこなくて。

ビールの原材料 ホップ
ビールの原料、ホップ。苦みや香りをつけるのに使います。

ぎん:
ホップは、ビールの原料ですね。

阿野さん:
そうです。ホップはすごいんですよ! 昔から睡眠を促したり、食欲を高めたりする効果が知られていて、ヨーロッパではいまだに医療代替品としても使われています。

でも日本では、ビールの原料としてしか知られていないんですよね。なので、日本のホップ農家さんはすごく苦労されていて、残念ながらその数は減っています。私たちの研究も含め、もっとホップの価値を高めていけたらいいなとも思っているんです。

今井:
どのビールにもホップは使われていますよね? ということは、ビールならどれも同じなのでしょうか?

阿野さん:
いえ、イソα酸の含有量はビールによって異なります。実は、数ある国産ビールの中でも、日本一と言っていいぐらいイソα酸をたくさん含むのがヤッホーさんの「インドの青鬼」なんです。とても美味しいので私のイチ押しです!

ヤッホーブルーイングのIPA「インドの青鬼」

ぎん:
えぇっ、そうなんですか!? 知らなかった!

阿野さん:
以前、市販されているほとんどのビールの成分を分析したんです。「ビールの成分が脳に良い」なんて発表をすると「あくまでビールの成分の結果と分かっているけど……、どのビールに多く入っているのか知りたい」って言われるれること、多いですから(笑)。

イソα酸の多少は、ビールを飲んだときの味でも感じられると思います。「苦味」の成分なので。最近流行ってきているクラフトビール、特にインディアペールエール(IPA)タイプのビールには多く含まれています。一方、すっきり辛口タイプには少ないですね。

ぎん:
たくさんあるビールの中で、阿野さんのイチ押しってうれしいです!

ヤッホーブルーイング よなよな編集部 ぎん

今井:
でも、イソα酸にはすごい効果があるんだから、他のビールにももっとたくさん入れたり、他の食品にも取り入れられたらいいのに。それは出来ないんですか?

阿野さん:
イソα酸って本当に、めちゃくちゃ苦いんです。苦すぎて、食品に取り入れるのが難しいんですよね。

ぎん:
そっかー。たしかにインドの青鬼も強い苦味がクセになるおいしさですけど、それが苦手って人もいますね。

阿野さん:
そうですよね。ですが、我々は発酵や熟成を得意としている会社なので……! ホップを熟成させることで、苦味を1/10〜1/20に抑えた「熟成ホップ」という食品素材を作りました。

ぎん:
おぉー!

阿野さん:
熟成は自然に任せるとすごく時間がかかってしまうため、特別な技術を開発して作っています。今は、一定の条件があれば、短時間で熟成ホップを作ることが出来るんですよ。

ぎん:
すごい! 苦味だけを飛ばせる魔法の技術があるんですね!

阿野さん:
ははは、そこまで大げさなものではないですけど(笑)。今は、熟成ホップがたっぷり入ったノンアルコールビールが出ているほか、こういうチョコレートやグミ、ソーセージなんかも売っています。弊社と電通が立ち上げたINHOPという会社のWebサイトで購入できますよ。

キリンビール 研究者 阿野泰久さん

今井:
阿野さんがずっと食べてたのはそれだったんですね! どんな味がするんだろう。 

阿野さん:
おいしいですよ! ぜひ食べてみてほしいです。このチョコ一袋に缶ビール5本分くらいのホップが使われています。たとえば、このソーセージをつまみにインドの青鬼を飲む。「最強晩酌セット」の完成です!

ホップからつくられる、脳にいいもの

チーズからβラクトリンを発見!まだ見ぬ「発酵の健康パワー」に迫る

今井:
阿野さんは、ビールの研究をする前はチーズの研究されていたそうですね。

株式会社ツドイ 編集者 今井雄紀さん

阿野さん:
そうです。チーズの研究では、カマンベールチーズから「βラクトリン」という新成分を発見しました。

ぎん:
βラクトリン、初めて聞きました! それも脳に良いものなんですか?

阿野さん:
はい!  ぎんさんは、チーズがどうやって作られるか知っていますか?

ぎん:
牛乳から出来てるってことくらいは……。

キリンビール 研究者 阿野泰久さん

阿野さん:
そう、まず牛乳に乳酸菌という菌を入れて発酵させます。そこにレンネットと呼ばれる凝乳酵素を入れると固まって。その塊がチーズに、固まらなかった液体はホエイと呼ばれます。

この塊をそのままぎゅっと丸めたのがフレッシュチーズ。それを熟成させたらセミハードやハードタイプのチーズになります。チェダーチーズやパルメザンチーズが有名ですね。

そしてさらに昔の人が、フレッシュチーズにカビ(菌)を付けて再び発酵させたんです。カビの種類によって、白カビチーズ、青カビチーズと呼ばれます。白カビはカマンベールチーズ、青カビはゴルゴンゾーラやロックフォールなどが代表的です。

ぎん:
へぇー。3段階の作り方があるんですね。

阿野さん:
細かくはもっと種類があるのですが、大まかにはそうですね。

私たちは脳の研究をしていますから、「この3段階のチーズを含め様々な乳製品の中で、認知機能に効果があるのはどれか」を調べました。結果として、一番効果が高かったのがカマンベールチーズ。2種類の菌で2段階発酵された白カビチーズですね。

株式会社ツドイ 編集者 今井雄紀さん

今井:
ということは、「発酵」が脳に良いってこと……?

阿野さん:
そうなんです! それで「カマンベールチーズの発酵の過程では一体何が起きてるんだろう?」と、もっともっと細かく分析していって。数年かけて、「βラクトリン」という新しい成分が、脳の認知機能に効果を発揮していると突き止めました。

今井:
おー!! 新成分の発見ってすごいですね!

阿野さん:
βラクトリンは、継続的に摂ることで、記憶力を維持してくれる効果が期待できます。こういうβラクトリンが効率的に摂取できるドリンクやヨーグルトもあるので、ぜひ! それと最近、弊社では脳の健康の習慣化に繋がる脳トレアプリも作っているんですよ。「キリン 脳トレ」とかで検索するとダウンロードできて、無料で利用できるので、食品と合わせてぜひチェックしてみてください!

キリンビール 研究者 阿野泰久さん

キリン βラクトリン

ぎん:
発酵ってやっぱり身体に良いんだなあ。

阿野さん:
そうですね。正しく発酵しているものは身体に良いものばかりです。今日お話ししたビールもチーズも発酵によって作られていますし、薬などのヘルスケア領域でも「微生物を使って新しい成分を作る」という発酵の手法はよく使われています。

特に日本の伝統的な発酵食品によく使われている麹は、乳酸菌などに比べて発酵する力が圧倒的に強いので、良い成分がたくさん含まれていますよ。

ぎん:
そうなんですね! もっといろんな発酵食品を研究したら、まだ知られていない健康効果が隠されているかもしれませんね。

阿野さん:
おっしゃる通りです! 私たちは、認知機能に着目した結果、カマンベールチーズの中からβラクトリンを見つけましたが、生活習慣病やうつ病、睡眠など、着眼点を変えて研究していけば、まだまだ見つかっていない成分がたくさんあると思います。これからも発酵食品の健康効果がどんどん解明されていくと思うと楽しみですよね。

結局「おいしいか」が一番大事! 研究者のリアルな食生活

ぎん:
阿野さんは長年食と脳の関係を研究されているんですよね。ご自身の普段の食生活でも、健康を意識しているんですか? 開発した商品(機能性食品)やサプリを毎日飲まれたり?

阿野さん:
えーっと……。お酒を飲むときはビールが多い、かな。

ぎん:
(それだけ……?)

阿野さん:
あ! 家ではヨーグルトを自分で作ってます、子どもと一緒に。

ぎん:
いいですね! お家でも発酵について学べそうです。

阿野さん:
いや、安いから……(小声)。

ぎん:
えっ。

キリンビール 研究者 阿野泰久さん

阿野さん:
しかもヨーグルトは、牛乳の中にスターターっていう乳酸菌を入れて、ヨーグルトメーカーのスイッチを押すだけで出来るんです……。

ぎん:
それじゃああんまり「作ってる感」はなさそうですね(笑)。

阿野さん:
でも、発酵が進むと固くなったり、味が変わったりするので、自分で作るから学べることはあると思いますよ!

ぎん:
なるほど(笑)。研究者の方って、みなさん研究の成果をちゃんと実践されていそうだなと思っていたので、意外でした。

阿野さん:
ははは、自分の食べ物の選択基準は「おいしいかどうか」ばっかりですよ(笑)。
研究も成分も大事ですけど、おいしいものを食べて、楽しく過ごす時間や記憶が、健康にはなにより大切なんです。脳にはストレスが一番よくないですからね。

ぎん:
わたしも、好きなものをおいしく食べたいです!

今井:
今日はとても楽しかったです。ありがとうございました!

阿野さん:
ありがとうございました!

キリンビール 研究者 阿野泰久さん

終わりに

私たちが作っている、大好きな「ビール」。本当に脳に良い効果があるなんて(しかもインドの青鬼が最強だなんて)とてもうれしい知識を教えていただきました。健康を気にして控えていた方も、これで気兼ねなくビールが飲めますね!(もちろん飲みすぎはNGですが……!)

今回の取材で、ビールやチーズ、発酵食品について深く知れただけでなく、楽しく解説してくださった阿野さんのおかげで、遠い存在だった「研究者さん」がぐっと身近になった気がします。これからの研究で、どんなことが解明されていくのか、楽しみです!

記事中でご紹介した「熟成ホップ」や「βラクトリン」について、もっと詳しく知りたい方は、ぜひこちらのページもご覧ください。

熟成ホップエキスとは?|カラダFREE|ノンアルコール飲料|キリン

機能性表示食品 キリン βラクトリン(ベータラクトリン)|ソフトドリンク|商品情報|キリン

さて、「よなよなの里」でお送りしてきた特集企画「おいしいものは、だいたい菌で出来ている。」もこれにて一旦終了です。次の特集もぜひお楽しみに!

ここまで読んでいただきありがとうございました。それではまたー!

(終わり)

執筆:水沢環 編集:ツドイ

この記事に出てくる商品
インドの青鬼
インドの青鬼 詳細はこちら
この記事を書いた人
よなよな編集部

この人の記事をもっと見る