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「ニューイの住む世界(ふるさと)」制作ウラ話。想像もしない場所・カタチに詩をつくるということ|甲信モダナイズな仲間たち

「ニューイの住む世界(ふるさと)」制作ウラ話。想像もしない場所・カタチに詩をつくるということ|甲信モダナイズな仲間たち

「山の上ニューイ」のコンセプトは「甲信モダナイズ」。甲信モダナイズとは、「もともと甲信地域(長野県・山梨県)に独自にあった自然やカルチャーに、現代的なセンスを加えて新しく表現する」という考え方のことです。そして、さまざまな形で山の上ニューイに関わってくれた「甲信モダナイズ」を体現する方々に、仲間のひとりである株式会社バリューブックスの内沼晋太郎さんが話を伺っていく連載「甲信モダナイズな仲間たち」がはじまりました。

今回話を伺った「甲信モダナイズな仲間」は、長野県安曇野市に自宅兼・ギャラリーを構え、詩とデザインを軸に多様なフィールドで表現をおこなわれている詩人・グラフィックデザイナーのウチダゴウさんです。

話した人:ウチダゴウさん

ウチダゴウ
詩人・グラフィックデザイナー
1983年生まれ。立教大学法学部卒。2010年に長野県松本市へ移住し、詩とデザインのアトリエ「してきなしごと」を開業。2018年、長野県安曇野市を拠点に。詩人としての活動と並行して、ブランディングを兼ね備えたディレクション・グラフィックデザイン、またギャラリーの企画運営を手がける。全国各地で個展・朗読会を開催、出演。近年では英国・スコットランドを度々訪ね、現地での執筆・朗読・個展活動を行っている。

聞いた人:内沼晋太郎

内沼 晋太郎(うちぬま しんたろう)
株式会社バリューブックス取締役、「本屋B&B」共同経営者、「八戸ブックセンター」ディレクター、「日記屋 月日」店主、ブック・コーディネーターとして、本にかかわる様々な仕事に従事。現在、東京・下北沢と長野・御代田の二拠点生活。

ウチダゴウさんには、山の上ニューイの製品パッケージにも記載されている、「ニューイの住む世界」をえがいた詩を書いていただいています。

詩をつくるしごとについて、ウチダゴウさんが考える甲信モダナイズとは? 内沼さんが話を聞いてきました。

社会は詩をもっと使ったらいい

内沼:
ウチダさんには山の上ニューイの詩を書いていただきましたが、最初にヤッホーブルーイングから依頼がきたとき、どのように受け取られたのでしょうか?

ウチダゴウさん:
これはおもしろい仕事になるな、と直感しました。詩の活動を続ける中でずっと思っていたんです、「社会は詩をもっと使ったらいいのに」って。詩は文芸の片隅の、なんだかめんどくさそうな芸術だと捉えられてしまうこともしばしばあるのですが、もっと俗っぽいものだと僕は考えていて。

内沼:
詩を書く本人が「使ったらいい」というのは、実際は珍しいスタンスですよね。でもすごく素敵だと思います。

ウチダゴウさん:
「詩に親しんでいる人が想像もしない場所に詩をつくる」という仕事は、とてもやりがいがあるなと思っていて。そんな仕事の話がヤッホーブルーイングというユニークな会社からくるなんて、「これは腕が鳴るぞ」と、とてもうれしかったですね。

「詩と朝ごはん in ALPS BOOK CAMP」 ウチダさんはさまざまな場所に詩をつくってきた(photograph by Yukihiro Shinohara)

内沼:
今回のようにビールの缶に詩を載せようとなったのは、ヤッホーブルーイングとしても初めてなんですよね。

マモチ(よなよなスタッフ):
初めての試みでした。普段、製品パッケージの裏面にはそのビールの紹介を載せています。しかし今回の山の上ニューイは甲信エリア限定での発売ということもあり、このビールを手にした甲信エリアの方に響くようなものを載せたいね、と社内で話しておりまして。そんな中で、あるよなよなスタッフが他のメディアに載っていたウチダさんの詩を拝見して、すごく長野らしいいい詩だなと。ぜひこのような詩を載せたい!と開発メンバー内で話をしたのがきっかけです。

内沼:
その提案が実際に通って、詩を載せよう!となるのがいかにもヤッホーブルーイングっぽいなと思います。

自身への挑戦でもあった「ニューイの住む世界」ができるまで

内沼:
この詩はビールのパッケージ版と、長いフルバージョンがあるのは最初から決まっていたのですか?

ウチダゴウさん:
いや、決まっていませんでした。最初は長いほうの詩だけあったのですが、この詩を渡した時にヤッホーブルーイングのみなさんは「あれっ、長いな」と思われたのじゃないかな(笑)。

マモチ(よなよなスタッフ):
そうですね(笑)。少し説明させていただくと、我々が伝えたいことを余すところなく表現したとてもいい詩なので、全て載せてみようとトライしたんですよ。ただ、かなりじっくり見ないと読めない程の文字の大きさになってしまって。単に詩が載っているのではなく、しっかりと読んでいただけるものにしたかったので、製品パッケージ用に短くできないかと改めて相談させていただきました。

ウチダゴウさん:
僕はグラフィックデザインもやるので、「全部入れるのは無理かもな……」と薄々は思っていたのですが。

内沼:
そうですよね、なんとなくそんな感じがしました。

ウチダゴウさん:
でもヤッホーブルーイングだからなぁと思いまして(笑)。最初から置きにいった提案では、満足しないだろうと。なので、まずは長さは気にせず世界観をきちんと表現できるように書きました。その上で、パッケージ用には全ての 連(※) から要所要所を抜き出すようにして。
※連:詩を区切る単位。詩を大きなまとまりで分けたもの。

内沼:
普通に考えると、詩の短いバージョンを載せる際、最初の一連だけを抜き出して「続きはウェブで」みたいにする形式を想像します。ところが今回の詩は、要約といいますか……なんと表したらいいのでしょうか。

ウチダゴウさん:
ダイジェスト版、とでも言いましょうか(笑)。

こんなところまで言っていいのかわからないですが、映画の予告編からヒントをもらったんですよ。映画の予告って全体の物語をいい形でまとめていますよね。これは詩にも落とし込めるかもと。もしできたら、僕としても表現の可能性が増えるし、詩を書いている人たちにも「なんだこれは!?」となにか感じとってもらえるかもしれないなと思い、おもいきって挑戦してみました。

内沼:
まさか映画の予告編だったとは……。たしかに話を伺っていて思ったのですが、パッケージってそういう側面もあるのかなと思いました。缶を開けて飲む前の、ある種の予告とも言えるのかなと。

「移住してもやっていけるな」ふと吹いた“風”が、そう思わせてくれた

内沼:
話は変わりますが、ウチダさんは10年ほど前、いわゆる Iターンで都内から松本に越されたんですよね。いまでこそですが、きっと当時はそういう方はめずらしかったのではないかと思います。

ウチダゴウさん:
そうですね。移住する前の視察で松本に通っているうちに「なんだか詩を書いているやつが来るらしいぞ」と、そういうのに興味持ってくれる方の中では広まっていました。その繋がりをたどっていたら、不動産屋に出会い、いい物件がみつかり、誰かに渡してしまうのはもったいないからと、引っ越しの日程も決まっていないのに仮契約していました。

移住当時のウチダゴウさん自宅からの風景

内沼:
行かざるを得ない状況を自らつくったのですね(笑)。

ウチダゴウさん:
松本の旧開智学校という観光地があるのですが、その駐車場に車停めて松本城脇を南下し、中心部に向かって歩いているときに、「ああ、いい風だな」と思えたのも決め手の1つのでした。

内沼:
風が決め手だったと。

ウチダゴウさん:
吹いていた風ももちろんそうなんですけど、流れといいますか、「あ、この風はのっていいやつだな。やっていけるな」みたいな感覚があって。その感覚が、移住決めた大きなきっかけとなりました。

移住時に営んでいた貸本屋での一枚

ウチダゴウが考える甲信モダナイズとは

内沼:
今回のコンセプトは「甲信モダナイズ」ということで、甲信エリアに住んで10年ほどになるウチダさんの中はどう解釈して、言葉に落とし込んでいったのでしょうか。

ウチダゴウさん:
土着的にあったものを、いまそこに生きる人が「自分なりのスタイルや価値観でカスタマイズする」ということなのだろうと咀嚼していたのですが、そもそも“営み”とはそういうものだと考えていて。文化なり価値観なり従来のものがあって、それがちょっと窮屈になってきて、新しいものができる。そして古いものとどう帳尻あわせていくか。その繰り返しが歴史であって、甲信モダナイズもそうなのかなと。

内沼:
なるほど。甲信モダナイズの価値観は、全く新しいものではなく、じつは過去を重ねてきた延長にあるものなんだよ、と。

そんなコンセプトを持ったビールを飲んでみた感想はいかがでしたか。

ウチダゴウさん:
飲んだ最初に覚えた感覚は、俗にいうとすごいスッキリしているということなのですが、うーん、僕の中のことばだと「やまのうえ」だったんですよ。

内沼:
おおーー。なるほど、なんだかとてもしっくりきました。

ウチダゴウさん:
自分なりに表現するならば「アルプスの山の頂上で感じる、なにか突き抜ける感覚」のようなものを覚えました。

内沼:
さすが、ウチダさんらしい表現ですね。味の感想はもちろんですが、ウチダさんが書かれた詩を含め、これから飲んで楽しんでくださる方の反応が楽しみです。

ウチダゴウさん:
詩って、書いてある言葉の意味ではなく、読んだ時の読者が感じる「おおっ」であったり、「わぁーっ」や「ひゃぁ」といった、“なんとなく”の部分が一番の醍醐味だと思うんですよね。それが山の上ニューイを手にしてくださる方に起こってくれたらいいなと思います。
 

「山の上ニューイ」ブランドサイト
https://yohobrewing.com/newee/

山の上ニューイのこだわりや、「甲信モダナイズ」について詳しくはこちら
「山の上ニューイ」ができるまで|長野・山梨を新しく表現する「甲信モダナイズ」とは?

ウチダゴウHP「してきなしごと」: https://shitekinashigoto.com

インタビュアー・編集:内沼晋太郎
執筆:神谷周作 

この記事に出てくる商品
山の上ニューイ
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